【社説】21年の日本 国民の選択眼が道を拓いた


東京五輪の開会式で披露された東京2020エンブ レム=23日、国立競技場

東京五輪の開会式で披露された東京2020エンブ レム=国立競技場

 新型コロナウイルス禍が全国に広がる中、今年の夏は東京五輪・パラリンピックが開かれ、秋には任期満了後の総選挙が実施された。その都度、国民一人ひとりの「選択眼」が問われたが、全体的に良い結果を残したと言えるのではないか。

 お茶の間が観覧席に

 東京五輪・パラリンピックが開催されるかどうかは、最後まで予断を許さなかったが、選手たちの思いを大事にしようという大会関係者の尽力があって実施が決断された。政府や東京都、大会組織委員会には、日本が国際社会における信頼を高めるため、いわば世界に対する公約を守りたいという意識が強くあったように思う。

 ほぼ無観客だったが、アスリートたちの感謝の気持ちが、特に開会式や閉会式によく出ていた。期間中、コロナ感染が確認される選手もいたが、大過なく大会を終えることができた。日本は金メダルラッシュで、その意気を示した。国民もお茶の間のテレビ観戦で大いに盛り上がった。

 五輪・パラリンピックの終了後、菅義偉首相が辞任し、岸田文雄政権が誕生。息つく暇もなく総選挙が行われ、与党の自民党が国会を安定的に運営できる絶対安定多数の261議席を獲得した。野党の中でより保守的立場の日本維新の会が躍進し、国民民主党も議席を増やした。

 衆参両院の憲法審査会で、憲法改正論議を活発に進めることのできる環境が数の上では整った。9条への自衛隊明記、緊急事態条項などについて積極的な議論を展開してほしい。共産党が野党第1党の立憲民主党と交わした「限定的な閣外協力」という合意の空疎な中身を国民はよく見抜いていた。

 感染力の強いデルタ株が襲来して感染者が増え、8月に東京の新規感染者は最も多い日で6000人近くに達したが、その後減り続けた。総体的に評価すべきコロナ対策が施された。ワクチン接種が速やかに行われ、接種率は約8割に達し、都会だけでなく地方の医療・公衆衛生の水準が高いことも、重症化や死亡者数の減少に寄与した。

 ほとんどの人が外出時にマスクを着け、不要不急の外出自粛要請に応じたことも欧米諸国との違いだ。全国民を公的医療保険制度でカバーする国民皆保険によって医療機関にかかりやすいことが、国民と医療の結び付きを強くしていることを改めて認識させた。

 哲学者の安岡正篤は著書『活眼活学』で「どんなに環境が悪くても、施すべき策がないほど行き詰まっておっても、これを自分の問題として、あるいは独自の問題、エリートの問題として考えれば、いくらでもその道が開ける」と、人の生き方を説いている。その精神を今後も生かしたい。

 変異株対策に指導力を

 一方、生産年齢人口の減少が日本経済に暗い影を落としている。「成長と分配の好循環」の実現に向け、政府の難しいかじ取りが予想される。

 新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」の市中感染者数は増加傾向にある。政府の指導力、国と地方自治体の一層の意思疎通が求められる。