【社説】処理水計画 着実な放出へ速やかな認可を


東京電力福島第1原発の構内に立ち並ぶ処理水を保管するタンク=2月19日、福島県大熊町(時事)

東京電力福島第1原発の構内に立ち並ぶ処理水を保管するタンク(時事)

 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水について、東電が海洋放出に必要な措置などの計画を盛り込んだ申請書を原子力規制委員会に提出した。

 処理水を着実に放出できるよう、規制委には速やかな審査と認可を求めたい。

 タンクは来秋にも満杯に

 申請によると、処理水を海水で100倍以上に希釈し、トリチウム濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めるため、大量の海水を取り込むポンプを設置する。希釈後の水は新たに設ける海底トンネルを通して、原発から約1㌔沖合に流す。トンネルの出口は、漁業が行われていない海域に含まれるという。

 原子炉の冷却水や建屋に流れ込んだ地下水は、内部に溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れることで放射性物質が含まれる。こうした水は1日当たり140㌧発生しており、これを特殊な機器で浄化したのが処理水だ。ただトリチウムは除去できないため、現在は敷地内のタンクに保管している。

 現計画では137万㌧を保管できるが、2022年秋にも満杯になる見通しだ。一部は、廃炉作業で取り出す使用済み核燃料などの一時保管予定地にも置かれており、処理水を放出しなければ作業に影響しかねない。

 計画が認可されれば、東電は22年6月にも本体工事を始め、23年4月中旬の完成を目指す。規制委の更田豊志委員長は、審査について「技術的に大きな困難があるとは考えておらず、それほど長期間は要しない」との見方を示している。計画を速やかに認可し、処理水の着実な放出につなげるべきだ。

 政府は今年4月、処理水の海洋放出方針を決定したが、風評被害を恐れる漁業者など地元関係者の反発は根強い。政府や東電は丁寧な説明で理解を得る必要がある。

 このほど成立した21年度補正予算には、風評被害対策費として300億円が計上された。水産物の価格が低下した場合、販路開拓などを支援するものだ。漁業者が安心して操業できる環境を整えることも欠かせない。

 経済産業省は19年11月、処理水を1年間で海洋放出すると、被曝(ひばく)線量は全ての放射性核種合計で最大0・62マイクロシーベルトとの推計結果をまとめた。日本国内では宇宙線や食物などから平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けているため、処理水の放射線の影響は「十分に小さい」としている。

 現在は2年前と比べて処理水が増えたので、数値は多少変化するだろうが、それでも人体への影響はほとんどないと言っていい。こうした数値を分かりやすく発信し、風評被害を防ぐことも政府の重要な役割である。

 トリチウムは自然界に広く存在している。水道水などを通じて人体にも入るが、濃縮されずに新陳代謝で体外に排出されるという。

 福島の復興につなげよ

 岸田文雄首相は今年10月に福島第1原発を視察した際、処理水の海洋放出について「先送りできない課題だと痛感した」と述べた。処理水放出を福島の復興につなげるため、全力を挙げなければならない。