【社説】大阪ビル火災 惨事繰り返さない法整備を


火災があったビルで救助活動をする消防隊員ら=17日、大阪市北区(市民提供)

 大阪市北区の雑居ビルで火災が起き、24人が死亡した。放火の疑いが持たれている。

 これまでも多くの人が死亡するビル火災が発生している。今回の火災の原因究明とともに、こうした惨事を繰り返さないため、雑居ビルのような建物に関する法整備が求められる。

男の放火で24人死亡

 火災の起きたビルは1970年に建設された鉄筋コンクリート8階建ての建物で、4階部分の約25平方㍍を焼いた。計28人が病院に搬送されたが、男性14人女性10人の計24人の死亡が確認された。

 4階のクリニックを訪れた50~60歳ぐらいの男が、温風機付近に紙袋を置いて蹴り倒し、漏れ出た液体が引火したとの目撃情報がある。大阪府警は現住建造物等放火・殺人事件として天満署に捜査本部を設置した。

 放火による大量殺人だとすれば、実に残忍で凶悪である。放火事件では、36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月のアニメ制作会社「京都アニメーション」の火災が記憶に新しい。

 このような卑劣な事件が繰り返されたことに怒りを禁じ得ない。男は病院に搬送されたというが、警察は容疑者の特定を急ぎ、事件の全容解明を進めるべきだ。

 繁華街の雑居ビルでは、過去にも不特定多数の人が死亡する火災が起きている。01年9月には東京・歌舞伎町の雑居ビルで44人が死亡する火災が発生したほか、08年10月には大阪市の個室ビデオ店が放火され16人が死亡。いずれも避難経路の狭さや障害物などが甚大な被害を招いたとされる。

 歌舞伎町の火災では、階段にあった障害物が避難を妨げたほか、防火戸が前に置かれた荷物で閉まらなくなっていた。ビル所有会社の経営者やテナント責任者ら5人が業務上過失致死傷罪に問われ、執行猶予付き有罪判決が確定している。

 今回の火災では、建物や設備に法律上の問題はなかったようだ。ただ建築基準法は小さい建物に関する規制が緩く、ビルには階段が一つしかなかった。これでは階段から火が迫ってきた場合、逃げ道がなくなってしまう。法改正で規制強化を進めるとともに、ビル所有者やテナント責任者は火災に備え、二つ以上の避難路の確保を考慮する必要がある。

 大阪市消防局が19年3月に行った定期検査では、消防設備に異常はなかった。だが検査で調べるのは設備があるかどうかだけで、設備の作動状況は確認しないという。火災の際に作動したのか疑問が残る。

安全管理を徹底せよ

 歌舞伎町の火災後、消防法が改正され、消防機関の権限や違反者への罰則が強化された。しかし東京消防庁によると、19年4月~21年3月に歌舞伎町地区のビル701棟を対象に行った検査では、避難路が荷物でふさがれ通れないケースが126件あった。

 これでは再発を防ぐことはできない。放火は決してあってはならないことだが、建物内の安全管理徹底はビル所有者やテナント責任者の重要な役割であることを自覚すべきだ。