【社説】家族会新代表 拉致解決へ北への圧力強めよ
北朝鮮による拉致被害者、田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さんが健康上の理由で家族会の代表を退任し、横田めぐみさんの弟の拓也さんが後任を務めることとなった。
これを機に、日本は拉致問題の解決に向けて北朝鮮への圧力をさらに強めるべきだ。
日米英仏などが批判
現在83歳の飯塚さんは11月に体調を崩し緊急入院。代表を続けることは体力的に難しいとして退任の意向を示したという。
飯塚さんは2007年11月、家族会の初代代表だっためぐみさんの父、滋さん=昨年6月に87歳で死去=の後任として代表に就任。拉致被害者全員の早期救出を求め、全国で署名や講演活動に尽力してきた。
ただ滋さんも体調不良で退任しており、家族会代表が2代続けて健康上の理由から交代したことになる。解決の糸口がつかめないまま家族の高齢化が進む拉致問題の現状を象徴する出来事だと言えよう。
滋さんのように被害者との再会を果たせずに世を去る家族も多い。拓也さんは「できることは何でもやらないといけない。母が元気なうちに姉と会わせてあげたい」と決意を語った。
家族の絆を引き裂いた北朝鮮の国家犯罪は断じて容認できない。拉致問題をめぐっては、政府が認定する未帰国の被害者が12人いるほか、拉致の可能性を排除できない行方不明者が900人近くいるという。
北朝鮮はかつて、めぐみさんの「遺骨」として別人のものを提供するなど、被害者の帰国を待ち続ける家族の気持ちを平気で踏みにじってきた。日本は被害者全員を取り戻すため、米国をはじめとする国際社会との連携を深め、北朝鮮への圧力を強める必要がある。
現在、中国による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害が国際社会から強い非難を浴びている。米国などは、来年2月の北京冬季五輪に政府関係者を派遣しない「外交ボイコット」を表明した。
同様に、北朝鮮による拉致問題も深刻な人権侵害である。このほど国連安全保障理事会は北朝鮮の人権問題をめぐって非公式に協議し、日米英仏など7カ国が共同で北朝鮮に日本人拉致被害者の即時帰国などを求める声明を発表。「北朝鮮による人権侵害は国境を越え、日本人らを強制失踪させ、本人の意思に反して北朝鮮内に留め置いている」と批判した。
北朝鮮の金正恩政権は拉致被害者を返さないだけでなく、核・ミサイル開発を進めて日本の安全を脅かしている。さらに、北朝鮮国内では10万人以上が政治犯収容所に入れられ、拷問や強制労働などで苦しんでいる。「金王朝」を維持するために国際社会と敵対し、自国民の人権を抑圧するのであれば、未来はないことを知るべきである。
スパイ防止法の制定を
北朝鮮による拉致問題の解決は、日本の主権、国民の生命と安全に関わる重大なテーマだ。
政府は被害者全員の帰国実現に全力を挙げるとともに、外国の工作員などから国民を守るため、スパイ防止法の制定や強力な防諜(ぼうちょう)機関の創設を急がなければならない。