【社説】北京五輪 ボイコットこそ最終的国益に
米国バイデン政権が来年2月に開かれる北京冬季五輪の「外交ボイコット」を発表した。新疆ウイグル自治区などでの中国の人権弾圧に抗議するものだ。自由と人権が踏みにじられている現実に目をつむることは許されない。日本も外交ボイコットを宣言すべきだ。
岸田首相「自ら判断」
ホワイトハウスのサキ大統領報道官は、同盟国などに米国と同調するよう働き掛けるのかとの問いに対し、「それぞれの判断に委ねる」と述べた。ただ米連邦議会議員の中には、バイデン政権に同調を呼び掛けるよう求める声もある。
米政権の外交ボイコット発表を受け、岸田文雄首相は「五輪やわが国の外交にとっての意義などを総合的に勘案し国益の観点から自ら判断していきたい」と述べた。林芳正外相も「適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案して判断する」と述べた。「諸般の事情」に人権問題は含まれるのかとの問いには「国際社会の普遍的な価値である自由、基本的人権の尊重、法の支配が中国でも保障されることが重要だ」と指摘した。
こうしたコメントからは「できれば外交ボイコットはしたくない。米国も各国の判断に委ねると一応は言っている。しかし、わが国も自由や人権という普遍的価値の尊重を掲げている。西側諸国の対応や内外の反応を見てから判断しよう」という本音が透けて見える。
日本政府が懸念するのは、中国の報復、特に経済報復だろう。2010年に沖縄県・尖閣諸島沖の領海で日本の巡視船と中国漁船が衝突した事件で両国関係が緊張した際、中国はレアアース(希土)の対日禁輸を実施した。経済以外にもさまざまな形での圧力が予想され、近視眼的な「国益」を考えれば躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ないだろう。
しかし、ウイグルでの大量虐殺、チベットや内モンゴルでの民族文化抹殺、香港の民主派弾圧などを続ける中国の五輪に外交使節を送ることは、それら人道への犯罪を間接的に容認することになる。これを放置すれば、ゆくゆくは世界の覇権を狙う中国の専制主義が世界を覆ってしまい、わが国の自由と人権も脅かされかねない。自由で人権の保障される国家を保持すること以上の国益があるだろうか。
今後、米国に続き西側諸国の中からも外交ボイコットの動きが出てくるものと思われる。日本が中国の横暴に対する抗議の声を上げ行動で示すことができないとすれば、国としての威信は大きく損なわれる。外交ボイコットこそ、長期的な観点からの国益に繋(つな)がる。
中国に開催する資格なし
テニス選手の彭帥さんの安否問題で、中国に五輪を開催する資格があるのかさえ疑問とする国際世論が高まっている。1980年のモスクワ五輪の際、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して日本は米国などと共に選手団を送らなかった。それを考えれば、北京五輪の外交ボイコットは最低限の措置である。
岸田首相は国際人権問題担当の首相補佐官を新設し、中谷元・元防衛相を任命した。この任命が名目だけのものでないことを示すべきである。