【社説】女子テニス中止 北京五輪開催の資格はない


中国の女子テニス選手の彭帥さん=2017年2月、台北(EPA時事)

 中国女子テニス選手の彭帥さんが、張高麗・前筆頭副首相に性的関係を強要されたことを告発した後、消息不明になった問題で、ツアーを統括する女子テニス協会(WTA)は、中国と香港で開催される全てのトーナメントを中止すると発表した。

 テニス選手の人権が守られない国で、大会を実施できないのは当然である。このような国に来年2月の北京冬季五輪を開催する資格はない。

中国の彭さん問題踏まえ

 WTAのサイモン最高経営責任者(CEO)は「彭さんが自由なコミュニケーションを許されず、性的暴行の疑惑を否定するように圧力をかけられているような状況で、選手に競技をしてもらうことはできない」との声明を出した。

 WTAは新型コロナウイルス禍前の2019年、中国で9大会を開催。賞金総額は3040万㌦(約35億円)に上るという。15年には中国企業と10年間で約1億2000万㌦(約136億円)のデジタル放映権契約を結んだ。

 巨額の損失が生じるにもかかわらず、経済的利益よりも人権を重視し、大会中止を決定したことは勇気ある判断だ。世界各国のテニス協会から中止決定を支持する声が上がっている。WTAへの賛同の輪が他の競技団体にも広がれば、北京五輪を控える中国にとっては大きな打撃となろう。

 一方、国際オリンピック委員会(IOC)は今月に入って、担当チームが彭さんと再びテレビ電話で会話したと発表。今回も安全で元気であることが確認されたと説明したが、いまだに当局の監視下に置かれている可能性が高い。

 IOCは、北京五輪成功を目指す点で中国当局と利害が一致している。テレビ電話については「中国の宣伝に使われている」との批判を浴びた。

 IOCの中国への対応は甘いと言わざるを得ない。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」とうたう五輪憲章の精神にも反する態度である。

 北京五輪について、バイデン米政権は中国・新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧などを理由に、政府関係者を派遣しない「外交ボイコット」を検討している。英国と豪州も検討中だと報じられた。

 中国は「スポーツの政治問題化には反対する」と猛反発している。日本に対しては「中国は東京五輪開催を全力で支えた。日本には基本的な信義があってしかるべきだ」などと述べている。コロナ禍で開催が危ぶまれた東京五輪と、人権問題でボイコットの動きを招いている北京五輪を同列に論じるべきではあるまい。

全面ボイコットの検討も

 彭さんの問題をはじめ、中国の人権状況に改善が見られなければ、北京五輪の外交ボイコットだけでなく、全面ボイコットを検討する必要も出てこよう。北京五輪出場を目指して練習に励んできた選手たちには実に気の毒だが、外交ボイコットをした上で選手を派遣すれば、選手が中国の「人質」になりかねないとの指摘もある。選手を危険にさらしてはならない。