【社説】わいせつ保育士 現場に戻さぬ審査の徹底を
厚生労働省が、児童へのわいせつ行為で登録を取り消された保育士の再登録を厳格化する方針を決めた。新たに再登録の可否を審査する制度を導入し、再登録の禁止期間も現行の2年から最長10年に延ばす。
しかし、この厳格化では不十分だ。わいせつ行為を行った保育士は二度と保育現場に戻すべきではない。
再登録に審査制を導入
保育士になるには、国家資格の取得に加え、都道府県による登録が必要だが、わいせつ行為で登録が抹消された後も再登録は可能だ。このため、再登録に制限を加える審査制を導入し、都道府県で新たに設置する審査会か、既存の児童福祉審議会を活用し、適当と判断されれば認める仕組みとする。
また、再登録できない期間も刑の執行後2年から禁錮以上の場合は10年、罰金は3年に延長する。厚労省は、関連する規定などを盛り込んだ児童福祉法改正案を来年の通常国会に提出する方向だ。
わいせつ事案による保育士登録の取り消し処分は、03年11月から昨年10月の17年間で計64人に上った。だが、これは氷山の一角だろう。幼児に対する卑劣な犯罪の防止に向け、再登録厳格化は一歩前進ではある。
ただ新制度では、わいせつ行為を行った保育士が復帰する可能性は残されている。性犯罪者の再犯率は高く、復帰後に再びわいせつ行為に手を染めないか強く懸念せざるを得ない。
5月には「教員による児童生徒性暴力防止法」が成立。教員や幼稚園教諭がわいせつ行為で教員免許を失効した場合、教育委員会が有識者らによる審査委員会を設け、免許交付を拒否できるようにした。
教員免許の再取得禁止期間は最大10年。刑法では禁錮以上の刑は終了後10年で消滅する規定があるためで、わいせつ保育士の再登録厳格化もこれに沿ったものだ。
わいせつ教員をめぐっては、文部科学省が2020年度、懲戒免職処分を受けた教員が無期限で免許を再取得できないようにする法改正を検討したが、見送っている。背景には、憲法22条の「職業選択の自由」に基づく慎重論があった。
しかし、わいせつ行為を行った教員や保育士の「自由」と子供をわいせつ行為から守ることのどちらが重要なのか。わいせつ被害による心の傷の深さは計り知れない。
幼少期にわいせつ被害を受けた人が、成人後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースもある。子供はわいせつ行為をされても自分から被害を言い出せないことが多く、子供を守るための環境を整備するのは当然のことだ。
わいせつ保育士の再登録厳格化をめぐっては、保護者から「二度と保育現場に戻さないでほしい」との声もあったという。こうした要望を踏まえ、審査では再登録を認めないよう徹底すべきだ。
社会全体で撲滅に全力を
性犯罪は被害者の尊厳を踏みにじる行為である。
保育や学校現場はもちろん、社会全体で撲滅に全力を挙げなければならない。