【社説】日大前理事長 あってはならない大学私物化


田中英寿容疑者

 所得税約5300万円を脱税したとして、所得税法違反容疑で日本大学前理事長の田中英寿容疑者が東京地検特捜部に逮捕された事件では、学内で絶大な権力を誇った田中容疑者が、大学を私物化していた実態が明らかになっている。

 脱税した疑いで逮捕

 逮捕容疑は、日大医学部付属板橋病院をめぐる背任事件で逮捕・起訴された業者らから受領した現金を除外するなどして所得を隠し、2018年と20年の所得税計約5300万円を脱税した疑い。田中容疑者が隠した所得は約1億2000万~1億3000万円に上る。

 高等教育機関である大学のトップが、業者から現金を受け取ること自体があってはならないことだ。特捜部の家宅捜索では田中容疑者の自宅から2億円超の現金が見つかっており、全容解明が急がれる。

 田中容疑者は日大相撲部の出身で学生横綱にもなった。相撲部監督就任後は同部を学生相撲の強豪に育て上げ、いずれも元小結の舞の海や智乃花ら有力力士を輩出。理事などを経て08年、理事長に就任した。

 しかし、理事長就任後は独断的な大学運営が目立った。側近を重用する一方、意に沿わない職員は人事面で冷遇されることもあった。

 利権の温床となったのが、大学の施設管理や委託業務契約の窓口などを一括して担う組織として10年に設立された「日本大学事業部」である。こうした大学出資の事業会社の役割は本来、物品調達などを事業会社に集約してコストをカットし、利益を非課税の寄付として大学に還元するというものだ。

 ところが背任事件では、付属病院をめぐる契約業務を事業部が担ったことで日大が計約4億2000万円の損害を被った。事業部は田中容疑者に近い人物らが役員を務め、流出した資金の一部が結果的にリベートとして大学トップに渡ったようだ。

 学内外から「日大のドン」と恐れられた田中容疑者だが、理事長就任後の13年間、金や利権に絡む情報やうわさがたびたび流れた。一部メディアでは暴力団関係者との交際疑惑が指摘され、国会で問題視されたこともある。

 大学トップであるにもかかわらず、背任事件が起きた際にも説明責任を果たそうとしなかった。18年5月に日大アメリカンフットボール部の悪質タックルが発覚した時も、一切口を開かなかった。責任逃れと言われても仕方のない態度である。

 田中容疑者の逮捕後、日大の臨時理事会では、加藤直人学長が理事長を兼任し、学長を除く理事全員が辞任することを申し合わせたという。これまでのワンマン体制による閉鎖性を打破し、学生やOB・OGが誇ることのできる大学へと生まれ変わらなければならない。

 独断的な運営を許すな

 文部科学省は私立学校法の改正を検討しており、評議員会に理事ら役員の選任・解任の権限を与え、理事と評議員の兼任を禁じるなど、監督機能を大幅に強化する案も出ている。学生や教員のためにも、大学はトップの独断的な運営を許さない体制づくりに努めるべきだ。