【社説】RCEP発効へ 対中依存度向上に注意必要


東南アジア諸国連合

 日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が来年1月1日に発効する。

 国内総生産(GDP)と人口で世界の3割を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。日本にとっては経済成長の足掛かりとなることが期待されるが、中国の影響力増大には注意を要する。

強制労働への批判強まる

 RCEPは自動車部品や農産品などの関税撤廃、知的財産権の保護や電子商取引に関するルールを定めるなど幅広い分野が対象だ。ただ、全体の貿易自由化率が91%にとどまるなど、環太平洋連携協定(TPP)よりも関税やルールの水準が低い。またTPPのように国有企業の優遇策を制限する条項もないため、中国も参加できた。日本が中韓両国と経済連携協定(EPA)を結ぶのは初めてだ。

 政府試算では、日本の実質GDP(国内総生産)は2019年度の水準で換算すると約15兆円押し上げられる経済効果が見込まれる。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ景気の回復を後押しすることが期待される。

 しかし域内人口の半分以上を中国が占める上、サプライチェーン(部品供給網)の展開が進めば、参加国の対中依存度が一段と高まることは間違いない。中国がこうした状況を、経済面で圧力をかける手段として使うことを警戒すべきだ。

 中国の習近平国家主席は、世界の産業チェーンの中国依存度を高め、原材料や部品の供給停止が外国に対する強力な威嚇能力を持つよう共産党に指示している。実際に中国は、新型コロナ発生源の調査を求めたオーストラリアに、大麦や牛肉の輸入制限などを実施している。

 一方、中国・新疆ウイグル自治区での強制労働問題への国際的批判が高まっている。先月の先進7カ国(G7)貿易相会合の共同声明は、中国を念頭に農業や衣料品など国際的なサプライチェーンでの強制労働に懸念を表明。会合では強制労働排除のための国際的な仕組みづくりが必要との認識で一致した。

 欧米では、企業に人権侵害のリスク軽減策の実施を義務付ける動きが相次ぐ。RCEPで日本と中国との経済的結び付きが強くなれば、ファーストリテイリングのユニクロ製シャツのように日本製品が市場から締め出されるリスクも生まれる。

 中国は対外的には覇権主義的な動きを強めている。沖縄県・尖閣諸島周辺では中国海警船が領海侵入を繰り返し、南シナ海では強引に軍事拠点化を進めている。RCEP発効が日本や地域の発展につながるとしても、こうした中国の身勝手な振る舞いを見過ごすことはできない。

TPP拡大で対抗を

 RCEPの加入交渉では、インドが対中貿易赤字の拡大を懸念して離脱した。日本も、中国の人権弾圧や覇権主義的な動きがさらに強化された場合は、脱退も考慮すべきではないか。

 現時点では中国の加盟が難しいTPPに関しては、米国の復帰がカギとなる。バイデン政権は早期復帰に慎重姿勢を示しているが、TPPを拡大し、中国の影響力拡大に対抗する必要がある。