【社説】熱海土石流 被害招いた行政の甘い対応


静岡県熱海市で7月に起きた土石流災害で、市が10年前、崩落起点に盛り土を造成した業者に向け、安全対策を強制的に行わせる「措置命令」の文書を作成しながら、命令を見送っていたことが分かった。盛り土への不十分な対応で、土石流被害を招いた行政の責任は重い。

業者への命令を見送る

 崩落起点の土地は、神奈川県小田原市の業者が2006年に取得し、09年から土砂搬入を開始。熱海市への届け出では、盛り土の高さは15㍍だったが、実際は3倍ほどの約50㍍あったとされている。

逆三角形に大きく削れた山肌、折り重なる家々

土石流が起きた静岡県熱海市の伊豆山地区=5日午後(時事通信ヘリより・時事)

 熱海市は11年6月に「土砂の崩壊や流出により災害の恐れがある」として、業者側に「県土採取等規制条例」に基づき、災害防止策を講じるよう命じる文書を日付を入れずに作成するとともに業者に弁明を求めた。しかし、業者側が盛り土に仮設の排水路を設置するなど防災工事を開始したため、命令は見送られたという。その後、工事は中断され、業者側とは連絡が取れなくなった。

 土石流災害ではこれまでに26人が死亡。1人が行方不明となっており、132棟が被害を受けた。盛り土が危険な状態で放置されていなければ、これほど大きな被害は出なかったのではないか。市の対応には甘さがあったと言わざるを得ない。

 当時既に盛り土を含む土地は売却されていた。市は、条例の適用対象が業者に限られ、土地を譲渡された現所有者に及ばないことも見送りの理由として挙げた。条例の不備が被害を招く結果になったのであれば大きな問題である。

 今回の土石流災害をめぐっては、遺族や被災住民ら70人が業者や土地所有者に対し、約32億7000万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁沼津支部に起こした。訴状では、盛り土の危険性が指摘されていたのに、造成業者らは安全対策をせずに甚大な被害を招き、住民の命や財産を奪ったとしている。

 静岡県と市はこの問題について行政側の対応を検証しており、今後弁護士や学識者からなる委員会を設置して年度内に検証結果を取りまとめる。盛り土が放置された原因を徹底究明しなければならない。

 一方、県は盛り土について届け出制から許可制に改める方針を示している。都府県のほとんどが許可制で、静岡県の規制が緩いため、盛り土が集まってくるとの指摘も出ていた。規制の強化を急ぐべきだ。

 もちろん、危険な盛り土は静岡だけの問題ではない。国は熱海の土石流災害を受け、全国各地の実態を調査しており、危険な場合は撤去などの安全対策を求める。

法改正で危険防止を

 建設現場のがれきや木くずなどの処理については、法律で厳しく規制されている。一方、建設残土は再利用できる資源と位置付けられ、規制の対象外となっている。

 だが国土交通省によれば、1年間に発生する建設残土のうち約5900万立方㍍が再利用されず、この一部が不適切に処理されているとみられている。国は法改正を進め、危険な盛り土の造成を防止する必要がある。