【社説】エネルギー計画 再エネ拡大には懸念が残る


 政府が新たな「エネルギー基本計画」を決定した。2030年度の電源構成で再生可能エネルギーの比率を前計画から大幅に引き上げる一方、原発の比率は変えず、建て替えや新設を進める方針も盛り込まなかった。再エネの普及には多くの課題があり、地球温暖化対策のためにも温室効果ガスを排出しない原発の活用推進が不可欠だ。

電力「地産地消」、ブラックアウト回避に備え

北海道鹿追町の太陽光発電設備(同町提供)

「最優先で導入」と明記

 計画の改定は約3年ぶり。再エネについて「最優先で導入に取り組む」と初めて記し、30年度の比率を36~38%(前計画は22~24%)に拡大する目標を盛り込んだ。火力発電は19年度実績の76%から41%(同56%)に削減。原発比率は前計画と同じ20~22%で、19年度実績である6%の3倍超とするが、建て替えや新設を進める方針は示さなかった。

 今回の計画は、30年度に温室ガスの排出量を13年度比46%削減する政府目標の裏付けとなるものだ。新しい「地球温暖化対策計画」も正式決定され、政府は両計画を基に30年度排出削減目標に関する国際公約を策定する。この公約は、月末から英グラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)までに、国連への提出が求められている。

 しかし、エネ計画で掲げた電源比率の目標達成への道筋は不透明だ。再エネ普及をめぐっては、政府が柱に据える洋上風力発電の本格的な整備は30年以降になる見通しだ。陸上風力や大規模太陽光は、新たに発電所を建設できる適地が少ない上、景観悪化などで住民らとのトラブルが増加している。

 また国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、日本の太陽光の発電コストは1㌔㍗時13・5円で、5円の中国や6・5円の米国の2倍超に上る。コスト削減のために再エネの大量導入を図るとすれば、送電網の増強費用や蓄電池の導入コストなどがかかる。発電コスト上昇は家計や企業の大きな負担となり、国内の産業競争力が低下する恐れもある。

 原発や再エネの発電が不足すれば火力に頼らざるを得ない。そうなれば温暖化対策にも逆行する。火力発電の電源構成での比率削減については、温室ガス排出削減目標への帳尻合わせだとして「実現性に欠ける」との指摘も上がっている。

 安定的な電力供給と温暖化対策強化のためには、やはり原発の活用を推進していく必要がある。30年度の原発比率を達成するには、電力会社が原子力規制委員会に審査を申請した全27基の稼働が欠かせない。

安全性高い原発開発を

 再稼働が停滞する中、国内企業が原発事業から撤退し、技術の維持、継承に支障を来すことが懸念されている。一方、世界では安全性の高い「小型モジュール炉(SMR)」の開発競争が激化している。

 SMRは原子炉を地中に埋めるために冷却しやすく、テロからも守りやすいという。実用化に向けて、日本を含む各国の企業が開発に取り組んでいる。原子力技術の維持、向上のためにも、既存原発の再稼働を進めるとともに、建て替えや新設の方針も明示すべきだ。