極超音速弾 高まる脅威への対処を急げ


 ロシアが今月、原子力潜水艦から極超音速ミサイル「ツィルコン」を水中発射する実験に初めて成功した。
 極超音速兵器は、現行のシステムでは探知や迎撃が困難とされる。高まる脅威への対処を急ぐべきだ。

ロシアのプーチン大統領=2021年3月24日、モスクワ(AFP時事)

周辺各国が開発競う

 実験では、ツィルコン2発を原潜「セベロドビンスク」から発射。このうち1発は、北極圏バレンツ海のロシア海域に設置した標的に命中させた。もう1発は水深40㍍からの発射に成功した。

 昨年10月には北方艦隊所属のフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」からの発射実験に成功。ツィルコンはわずか4分半で450㌔離れたバレンツ海の標的を破壊した。

 極超音速兵器は極超音速(マッハ5以上)で飛行するミサイル兵器。近年、ロシアのほか米国や中国で開発競争が激化している。軌道が低いだけでなく、不規則に変えることができる。長距離飛行技術が確立すれば、発射から1~2時間で地球上のどこでも攻撃できるとされる。

 ロシアは極超音速滑空兵器「アバンガルド」を実戦配備済みとされる。一方、米国は今年9月、外気吸入型極超音速巡航ミサイル(HAWC)の飛行実験に成功した。

 中国も米国攻撃を想定した新型極超音速ミサイルの試験発射を数十回実施。台湾に近い中国南東部の沿岸には、極超音速ミサイル「東風17」を配備したとされる。

 北朝鮮も極超音速ミサイル「火星8」の初めての発射実験を行った。韓国軍合同参謀本部によれば「開発の初期段階」ではあるが、北朝鮮の核・ミサイル開発が進んでいることを示すものだ。中朝両国の脅威が一層増していると言える。

 日本では昨年6月、自民党の安全保障調査会の下に「ミサイル防衛に関する検討チーム」が発足し、検討チーム設立についての文書が配布された。とりわけ「従来のミサイル防衛で念頭に置かれていた弾道ミサイルのみならず、極超音速の巡航ミサイルといった新たな脅威への対応も喫緊の問題となっている」という文言に注目しなければならない。

 政府は昨年6月、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」導入計画を全面撤回した。背景には、このシステムでは極超音速兵器への対処が困難なことがある。

 検討チームが昨年8月、政府に提出した提言には、極超音速兵器に対応するため、地上レーダーや対空ミサイルの能力向上の推進、米国との連携確保、低軌道衛星コンステレーション(多数の人工衛星を協調動作させるシステム)や滞空型無人機の活用などが盛り込まれた。

衆院選での論戦を期待

 間もなく実施される衆院選では、各党が目指すミサイル防衛政策の明示も求められる。自民党は公約で、敵基地攻撃能力を念頭に「相手領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みを進める」と打ち出した。

 各党間の活発な論戦を期待したい。