岸田首相所信表明 政策の実現へ覚悟を示せ
岸田文雄首相が内閣発足後初の所信表明演説を行った。内閣の基本姿勢や重要課題について見解を示すのが目的だが、対話重視の「岸田カラー」を打ち出したものの、それを立案し実現につなげられるのかについては疑問符が付いたままだ。
来週から始まる与野党の代表質問では、政策の実現へ迫力をもって覚悟を示してほしい。政権選択となる衆院選を控えているだけに、野党側も単なる批判の多い質問にとどまらず建設的な論戦を期待したい。
毅然とした外交に疑問
岸田首相はまず、新型コロナウイルス対応に「万全を期す」とし、「安心確保」の取り組みを行う考えを強調した。感染者数は減少傾向にあり、緊急事態宣言が全面的に解除されたとはいえ、危機対応の要諦は常に最悪の事態を想定することにある。気を抜かずに最優先課題に据えるのは当然である。
そうした中でも、首相が国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明をし、「信頼と共感」が得られる政治の必要性を説いたのは、菅義偉前首相が国民への説明不足を批判され続けたことが念頭にあるのは間違いない。全閣僚が国民との「車座対話」を積み重ね国民の声を吸い上げる方針を示したのは岸田カラーの表れでもあろう。
疑問なのは、岸田政権の目玉である経済安全保障が、新しい資本主義を実現していく成長戦略の柱の中で語られていることだ。この岸田ビジョンを具体化する車の両輪が成長戦略と分配戦略であることは分かる。首相は「戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自律的な経済構造を実現」すると語る。
ただ、経済安保は「軍事力を使わない戦争」への対応であり、特に中国の脅威が増大しているため、国家安全保障戦略の観点から自民党政務調査会が昨年12月に「『経済安全保障戦略』の策定に向けて」と題する提言を公表した。その取りまとめをした小林鷹之氏が初の経済安保担当相に起用された。
そうであれば「国民を守り抜く、外交・安全保障」の項目の中でも詳細に触れるべきではなかったか。中国に対して首相は「主張すべきは主張」すると述べる一方で「対話を続け、共通の諸課題について協力していく」と語る。中国公船による沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵犯や台湾海峡有事についてはひと言も触れていない。これで「毅然(きぜん)とした外交を進める」ことはできるのか。
岸田首相は外交・安保政策について三つの強い「覚悟」をもって行うとも語った。しかし、その「覚悟」が憲法改正に関して示されなかったことは残念である。
代表質問で改憲問え
首相は「(各党が)建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待する」とだけ語った。
自民党総裁選のときには、候補者の中で唯一「総裁任期中に実現する。最低でもめどをつける」と期限を切った公約をしたが、その時の意気込みは見られなかった。与野党の代表質問者にはこの点を問いただしてもらいたい。