原子力潜水艦 中国念頭に保有の検討を


今回の自民党総裁選では原子力潜水艦の保有の是非が議論された。中国の覇権主義的な海洋進出が強まる中、日本がインド太平洋地域の安定に貢献する上で、原潜保有に前向きな検討が求められる。

オーストラリア海軍の潜水艦のデッキに立つマクロン仏大統領(左から2人目)と当時のターンブル豪首相(中央)ら=2018年5月、シドニー(AFP時事)

米英が豪州の建造に協力

 通常型潜水艦が沿岸域での運用を比較的得意とするのに対し、原潜は外洋域での運用に向いている。原潜の方が半永久的にエンジンを稼働できるので、航続距離も長くなる。原潜は核燃料を一度装填(そうてん)すると半永久的な潜航が可能となる。潜航中は海水から真水や酸素を作ることができる。

 現在原潜を保有するのは米英仏中露にインドを加えた計6カ国。全て核保有国で、原潜には核弾頭付き潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載する。原潜をめぐっては、米英両国が対中国の観点からオーストラリアと新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設し、豪州の建造に協力することで合意している。豪州が原潜を保有すれば、核兵器を持たない国としては世界初だ。

 豪州はフランス企業と進めていた通常動力の潜水艦開発・建造の契約を一方的に破棄し、原潜開発を目指すと決定した。このことはフランスの反発を招いたが、背景には中国との関係悪化がある。

 豪政府は昨年4月、新型コロナウイルスの発生源に関する国際調査を中国に求め、反発した中国は豪州産大麦やワインに反ダンピング関税を導入するなど対立が強まっていた。原潜開発は中国の海上戦力強化に対応するものだ。

 とはいえ、フランスは一時、駐米大使を召還するほど態度を硬化させた。バイデン米大統領の調整不足は否めない。中国に足元を見られることがないよう、米英豪はフランスとの関係を早急に改善すべきだ。

 一方アジアでは、韓国の文在寅大統領が原潜の保有計画を着々と進めている。将来、韓国と北朝鮮が原潜を保有することになれば、中国、ロシアを含む日本周辺の4カ国が原潜保有国になる。

 日本の排他的経済水域(EEZ)の面積は世界第6位の広さだが、海上自衛隊は原潜を保有していない。それは日本の防衛の基本理念が「専守防衛」だからだ。これまで自国から遠く離れた海での潜水艦の運用は考えてこなかった。

 原潜をめぐっては、自民党総裁選で河野太郎規制改革担当相が、自治体の母港受け入れの可能性や運用能力、コストを検討する必要はあるとしつつも「能力的には日本が原潜を持つことは非常に大事だ」と強調。高市早苗前総務相は「今後の国際環境を考えると、長距離に対応できるものはあってもいい」と述べた。

 衆院選へ論議深めよ

 一方、岸田文雄新総裁は総裁選で「日本の安保体制を考えた場合にどこまで必要なのか」と指摘し、保有に否定的な見解を示した。ただ、中国に対抗して「自由で開かれたインド太平洋」を実現していく上で、日本の原潜保有は大きな検討課題だと言えよう。衆院選に向けて論議を深めてもらいたい。