岸田自民新総裁 衆院選へ強固な挙党体制を


自民党の岸田文雄前政調会長が総裁選の決選投票で河野太郎規制改革担当相を破って当選した。新総裁は「選挙の顔」であり、近く行われる衆議院総選挙で国民の審判を受ける。「生まれ変わった自民党を示す」と語る岸田新総裁は早急に強固な挙党体制を築かねばならない。

第100代首相の就任も確実なことから、国家の在り方やそれを実現するための戦略を分かりやすく丁寧に国民に発信することも求められる。

自民・岸田氏「バナナはおやつ」じゃありません

動画サイト「ユーチューブ」のライブ配信に出演した自民党の岸田文雄前政調会長=5日午後、東京都千代田区

有言不実行では信失う

 岸田氏はアベノミクスの基本的な方向性を受け入れながら、年内に数十兆円規模の経済対策を行い、その先に新しい資本主義を構築して「成長と分配の好循環」をもたらしたいと強調した。第1回投票で1票差ながら岸田氏が河野氏に勝利したのは、有権者が継続性と安定感を求めたからだろう。

 目玉の一つとなった党改革で岸田氏は、総裁を除く党役員任期を「1期1年、連続3期まで」に制限することを打ち出した。当選後の記者会見で、この考えは「1㍉も後退していない」と表明した。古い慣習にとらわれない党改革に着手することは画期的であり、国民に新鮮さをアピールできよう。

 執行部が求心力と指導力を持つためには、敗れた河野氏、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の3氏が選挙戦での数々のしこりを乗り越えて結束する必要がある。適材適所の党役員人事が行えるよう3氏は協力すべきである。

 最も注目したいのが憲法改正の行方である。全候補は政策論争で自民党のまとめた改憲4項目に前向きな姿勢を示した。その中で、岸田氏は「党総裁の任期中に実現したい」と意欲を示した。だが、実現に向けての道筋が示されていない。岸田氏は「政治が信じられない」ことを「民主主義の危機」と語った。有言不実行では信を失う。そのことを肝に銘じるべきだ。

 見逃せないのは、高市氏の健闘である。国会議員票を114票獲得し、河野氏の86票を上回った。高市氏の保守政策に賛同した議員が、安倍晋三前首相による強力な支援もあって支持した結果である。

 決選投票では政策の近い岸田氏に多くの高市票が行った。岸田氏は「特技は人の話を聞くこと」だと語っている。それならば、なおさら保守層に支えられる高市氏らとの議論を深めてもらいたい。そうすることが自民党の政策軸を固め直し再浮上できるカギであるからだ。

 例えば、高市氏は「敵基地攻撃能力」について保有を主張し、岸田氏は「有力な選択肢」だとしている。中国や北朝鮮によって引き起こされている安全保障危機に対処するために保有は待ったなしだ。対中国非難決議の国会採択や、皇位継承の女系反対・男系維持で一致している。選択的夫婦別姓や同性婚でも共通点がある。私権制限の問題もある。これらの議論を深めてもらいたい。

カラーの出た人事を

 岸田氏は今後、党役員、閣僚の人事を行い新政権をスタートさせる。党内融和を重視しつつ岸田カラーのにじみ出た老壮青の顔触れを見たい。