日米関係 日本は自主防衛力の向上を
米国の新しい駐日大使にラーム・エマニュエル前シカゴ市長が指名された。上院の承認を得られ次第、着任する。
アフガニスタンからの米軍撤収で、米国と日本をはじめとする同盟国や友好国との信頼関係が揺らいでいる。エマニュエル氏には、米国への信用回復や日米同盟深化に向けたパイプ役となることが求められる。
政権中枢に近い新大使
エマニュエル氏は日本との接点はほとんどなく、駐日大使としての手腕は未知数だ。だが、政権中枢に近いエマニュエル氏が指名されたのは、バイデン大統領が「唯一の競争相手」と位置付ける中国との安全保障や先端技術などの覇権争いをにらんで、日本との連携強化を重視していることの表れだろう。
エマニュエル氏は大統領首席補佐官を務めたオバマ政権で、副大統領だったバイデン氏やその側近と太いパイプを築いた。2011年から19年までシカゴ市長を2期務めたが、黒人少年を銃で死亡させた警官の映像を公開しなかったことが問題となった。こうした経緯から与党民主党の一部には駐日大使起用への反対論がある一方、共和党内に起用を支持する声がある。
ハガティ前大使(現上院議員)は19年7月に辞任し、駐日大使の空席が2年以上続く異例の事態となっている。バイデン氏と関係が近いエマニュエル氏の着任が待たれる。
バイデン政権が強行したアフガンからの米軍撤退は、米国の同盟国や友好国に大きな衝撃を与えた。アフガン政府軍の実力を過信した結果、アフガン政権崩壊を招き、イスラム主義組織タリバンの実権掌握を許した。
アフガンが再びテロの温床となる懸念が高まっている。甘い見通しに基づいて米軍撤退を急いだことはバイデン政権の大失態である。
ただ忘れてならないのは、アフガン政府の側にも問題があったということだ。米国はアフガン戦争開始以来、1兆㌦(約110兆円)以上をアフガンに投じ、数千人の米兵が命を落とした。しかし、アフガン政府や軍では汚職が蔓延(まんえん)し、兵士の士気も低かった。こうした腐敗体質を改善できないまま、米国に見捨てられることとなった。
日本が米国との同盟関係を強化するには、自主防衛力の向上に努め、同盟の片務性を是正していくことが欠かせない。日米安全保障条約は第5条で米国の日本防衛義務を定めている。一方、日本に課された義務は駐留米軍に基地を提供し、日本の施政下の領域への攻撃に共同対処することにとどまっている。
今年4月の日米首脳会談で、バイデン氏は沖縄県・尖閣諸島が第5条の適用対象であると改めて表明した。中国が一方的に領有権を主張する尖閣を守るため、このように米大統領の確約を得ることは重要だが、それで満足してはならない。日本も公務員常駐などの実効支配強化策や、グレーゾーン事態に対応するための法整備などの尖閣の防衛政策を進めるべきだ。
同盟強化への貢献を期待
この時期に日本に着任するエマニュエル氏の役割は大きい。日米同盟強化への貢献を期待したい。