米同時テロ20年 振り出しに戻った脅威環境
2001年9月11日の米同時テロから20年を迎えた。アフガニスタンからの米軍撤収により、イスラム主義組織タリバンが権力を掌握した結果、アフガンが再びテロの温床になる懸念が強まっている。米国を筆頭とする自由主義陣営が取り組んできたテロとの戦いが「振り出しに戻ってしまった」(ジュリアーニ元ニューヨーク市長)のは、痛恨の極みである。
アフガンから米軍撤収
バイデン米大統領が米軍撤収を急いだのは、同時テロ20年の節目に「永遠の戦争」を終結させたことを宣言して歴史に名を残したいという功名心からだ。だが、現地の状況を無視して政治的思惑を優先した結果、アフガン政府はあっという間に崩壊した。バイデン氏は最悪の形で戦争を終わらせた大統領として歴史に刻まれるだろう。
そもそも米国がアフガンに侵攻したのは、同時テロを実行した国際テロ組織アルカイダをかくまうタリバン政権を打倒し、アフガンがテロの温床になるのを防ぐためだった。だが、権力の座に返り咲いたタリバンは依然、アルカイダと緊密な関係を維持しているとされ、最低限の目標さえ達成されていない。
タリバンの勝利に感化された各国のイスラム過激主義者たちがテロを画策する可能性があるほか、アフガンが「再びジハード(聖戦)戦士を引き付ける磁石」(ジャック・キーン元米陸軍大将)になる恐れがある。
バイデン政権は、米軍撤退後も国外からドローン(無人機)などでテロ組織の動向を監視できると主張している。だが、米軍基地という情報収集の前線拠点を失った上、パートナーであるアフガン政府の情報機関も崩壊した。米国のインテリジェンス能力が劇的に低下したことは、今後のテロとの戦いで深刻な懸念材料だ。
バイデン氏は、中国やロシアとの競争に軸足を移すことが可能になったとアフガン撤退を正当化している。米国が対テロ戦に傾注したことが中国の台頭を放置する結果を招き、中東からアジアへのシフトが求められていたことは確かだ。
だが、バイデン氏が副大統領だったオバマ政権時代、米軍の性急なイラク撤退が過激派組織「イスラム国」(IS)の伸長を許し、再派兵を余儀なくされた。アフガンも再びテロの温床となるようであれば、アジアシフトの障害になりかねない。
対中戦略の観点で致命的なのは、バイデン政権がアフガン政府を見捨てたことで、同盟国・友好国の信頼を失ったことだ。米単独で中国に対峙(たいじ)していたトランプ前政権と違い、バイデン政権は同盟国と歩調を合わせて対中圧力を強化する方針だったが、その基盤が崩れたのだ。
特に、パキスタンと緊密なタリバン政権の復活は、インドにとって地政学的大打撃であり、インドは日米豪印の連携枠組み「クアッド」に積極的に加わる余裕を失う恐れがある。
不安定さ増した国際秩序
20年前と比べ、米国と世界は平和になったのか。テロの脅威の復活、中国の強大化、米国の威信低下を考えると、残念ながら国際秩序は当時よりも不安定化したと言わざるを得ない。