水虫薬患者死亡、あまりにもずさんな安全管理
製薬会社「小林化工」(福井県あわら市)の「爪水虫」などの治療薬に睡眠導入剤成分が混入していたことが分かった。
服用後に死亡した事例が生じたほか、健康被害に関する報告が既に100件以上寄せられている。薬の安全性への信頼を失わせ、患者の健康を損なった同社の責任は重い。
睡眠剤を誤って混入
同社の発表によれば、死亡した患者は首都圏の病院に入院していた70代女性。同社は薬と死亡との因果関係について詳しく調べるとしている。
亡くなった女性が服用したのは、イトラコナゾール錠50「MEEK」のロット番号「T0EG08」。同社は自主回収を始めているが、同じロット番号の錠剤は約9万錠ある。薬は医師の処方箋が必要で、市販はされていない。問題の錠剤を処方されたのは31都道府県の364人に上る。
薬は厚生労働省の承認を得ていない工程で製造されており、原料を継ぎ足す際に、睡眠導入剤の成分である「リルマザホン塩酸塩水和物」を取り違えて入れたとみられる。同社の規定では、成分の取り出しや計量などは2人1組で指を差しながら間違いがないか確認することになっている。
ところが、今回は1人で作業をしていたという。同社は担当者が誤って混入させたのは7月ごろだとしているが、担当者は「記憶にない」との趣旨の説明をしている。
薬の服用は生命や健康に関わる。安全確保は薬を販売する上での大前提だ。それにもかかわらず、同社の安全管理はあまりにもずさんだと言わざるを得ない。これでは、製薬会社の資格はないと批判されても仕方があるまい。
あわら市には同社の工場や研究所などがあり、問題の錠剤は「矢地第1・第2工場」で製造された。この工場では、別の工場で導入されている成分のバーコード管理はされず、全て人の手で管理されていた。
リルマザホンの混入は1錠当たり5㍉㌘で、これは1回の最大投与量の2・5倍に当たる。イトラコナゾールは1日に8錠服用する人もおり、この場合は通常の20倍に相当することになる。これだけの量を飲めば生命の危険があるという。
服用後に意識を失ったり、ふらついたりするなどの健康被害についての報告は今月12日時点で134件に達した。このうち救急搬送や入院が確認されたケース(退院者を含む)は33件、自動車などによる事故は15件に上っている。
同社の小林広幸社長は「重大な過失を起こしたことを深くおわびする」と謝罪したが、死亡した女性の事例も含め、極めて深刻な事態である。同社を立ち入り調査した福井県は、医薬品医療機器法違反に当たる可能性もあるとみている。徹底究明し、再発防止につなげるべきだ。
意識向上への取り組みを
他の製薬会社もこの問題を他山の石とし、安全意識の向上と安全管理の徹底に取り組む必要がある。患者は病気を治すため、服用する薬に全幅の信頼を置いている。その信頼を裏切ることがあってはならない。