米民間宇宙船 有人宇宙新時代の幕開けだ


 米宇宙企業「スペースX」の開発した有人宇宙船「クルードラゴン」が約2カ月間の任務を終え、無事帰還した。民間開発による初の本格的有人宇宙船の任務成功である。

 有人宇宙の新時代の幕開けに喝采を送るとともに、これを切り開いた手法は、いかにもフロンティア・スピリットに溢(あふ)れた米国らしい。日本も参考にすべきは参考にし、日本らしい宇宙開発を示していきたい。

ISSへの輸送手段確保

 今回のクルードラゴンの成功により、米国は9年ぶりに国際宇宙ステーション(ISS)への有人輸送手段を確保した。

 事故により安全対策にコストが膨らんだスペースシャトルが2011年に退役した後、ISSへはロシアの「ソユーズ」に頼らざるを得なかったが、その間、米航空宇宙局(NASA)はスペースXやボーイングなど民間企業に開発資金を支援し、技術移転を進めて開発を競わせてきた。その結実なのである。

 クルードラゴンの飛行士1人当たりの打ち上げ費用は1億5500万㌦(約58億円)。コスト抑制に成功し、ロシア依存も脱却を果たした。

 今回帰還したクルードラゴンは試験機。スペースXは9月以降に運用機を打ち上げる計画で、1号機には野口聡一さん、来春予定の2号機には星出彰彦さんがそれぞれ搭乗する。同社は今後、宇宙旅行の本格化に向けた宇宙ビジネスを展開する。

 米国は現在、アルテミス計画に本腰を入れている。アポロ以来の壮大な計画で、24年までに宇宙飛行士を月面に着陸させ、月の南極地点に基地を建設。資源の開発やここを起点にした火星への飛行も視野に入れる。

 この計画でも米国は同様の手法で民間企業に競わせており、5月には月着陸船の開発で、インターネット通販最大手アマゾンの最高経営責任者(CEO)であるベゾス氏が創業したブルーオリジンやスペースXなど3社を採択した。

 こうした手法は、他の国でも容易に真似できるものではない。民間に巨大資本があり、かつ宇宙企業が育っている米国だからこそできる芸当であろう。

 日本は昨年10月、このアルテミス計画への参画を決定。6月末に改定された宇宙基本計画は、日本人宇宙飛行士の活躍の機会の確保など日本の宇宙先進国としてのプレゼンスを十分に発揮するため「ISS計画での経験を活(い)かし、日本が強みを有する分野(有人滞在技術や補給等)で参画し、月周回有人拠点『ゲートウェイ』の建設・運用・利用及び『ゲートウェイ』の活用に向けた技術実証に取り組み、深宇宙探査に必要な能力を獲得する」とした。

「日本らしさ」の発揮を

 クルードラゴンの成功は近い将来、有人宇宙輸送が宇宙開発の基盤インフラになることを示唆する。だからこそ、改定宇宙基本計画は「将来における有人輸送の重要性に留意することとする」とした。宇宙探査では「はやぶさ」「はやぶさ2」などが日本らしい実績を挙げているが、準有人仕様で物資輸送を果たした「こうのとり」も海外から高い評価を得た。「らしさ」は有人輸送でもできるはずだ。