北朝鮮は現実の脅威 衝動的な攻撃に備えよ
非難・制裁も顧みず
1982年1月8日生まれが正しければ北朝鮮の金正恩第一書記は現在34歳である。
聞知するところによれば、少年期にスイスに留学。帰国後、北朝鮮の最高学府である金日成総合大学と高級将校の教育機関である金日成軍事総合大学で学び、28歳で朝鮮人民軍の大将に昇進。そして父親の金正日の死去により弱冠30歳で国防委員会第一委員長に就任。党と国家と軍の三権を握る最高指導者となり、元帥の称号を授与された金正恩は「卓越した将軍」とか「軍事的天才」などと内外に喧伝(けんでん)され、その経歴はあのナポレオンを髣髴(ほうふつ)とさせるものがある。
因みにナポレオンはパリの陸軍士官学校を卒業。26歳の若さでイタリア遠征軍司令官(大将相当)に任命され、金正恩と同じ30歳で執政政府を樹立して第一執政となって政権の座に就き、その後、フランス第一帝政の皇帝になった。
プロシアの将軍クラウゼヴィツの著書『戦争論』はナポレオン戦争時代の数多(あまた)の実戦に参加した著者が、その豊富な経験に基づいてナポレオンを徹底的に研究し執筆したものである。
クラウゼヴィツは「戦争において非凡な業績をあげるためには特異な知力と精神を有する軍事的天才が必要である。全戦役を指揮して輝かしい目標に達するためには、最高の国家関係についての深い洞察が必要となる。戦争遂行と政治はこの点で一つに合流し、卓越した将軍は同時に政治家となる」と述べている。ここで言う軍事的天才と卓越した将軍がナポレオンを指していることは言うまでもない。
一方の北朝鮮の“卓越した将軍様”は軍事的天才には程遠い人物であることは衆目の一致するところであり、それどころか独裁者特有のパラノイア(偏執病)で、猜疑(さいぎ)心に凝り固まり思慮分別をなくしてしまっているようである。
国際社会の非難や制裁などにもかかわらず、北朝鮮は核実験、長距離弾道ミサイル発射に続き、短距離ミサイルやロケット弾発射などの挑発を繰り返しているのだ。
来月、36年ぶりに開かれる国政の最高機関である労働党大会を「金正恩時代」の幕開けを告げる一大イベントとし、核保有を前提とした強盛国家の実現に向けて尽力することこそが自身の地位を維持することだと金正恩は信じて疑わない。
未熟暴力的との人物評
米国情報筋による金正恩の人物評価は「非常に未熟で予測不可能、衝動的で暴力志向的」であるとしている。こういう人物はまことに厄介だ。いざとなったら何をするかわからないからだ。いずれも相手が合理的かつ正常な価値判断に立脚しているであろうという暗黙の信頼の上に成り立つ抑止戦略そのものが機能しないことになる。
現在の日本にとって現実の軍事的脅威は北朝鮮であることは論を俟(ま)たない。すでに日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」を約200基配備し、約15万のテロ・ゲリラ戦の特殊部隊を擁しているのだ。
朝鮮半島有事が北朝鮮による対日武力行使に発展する蓋然(がいぜん)性は否定できず、それは「重要影響事態」であると同時に「存立危機事態」に該当する。新安保法制に基づく米軍への自衛隊の後方支援は元より、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結など防衛協力を着実に進め“北の将軍様の狂気”と脅威に備えておかねばならない。
(敬称略)










