日台連携強化で尖閣守れ-矢野義昭氏

世日クラブ講演要旨

台湾・尖閣有事
日本はいかに中国の侵略に対処するか?

日本安全保障研究会会長 矢野義昭氏

 世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス)の定期講演会が21日、動画サイト「ユーチューブ」のライブ配信を通じて行われ、日本安全保障研究会会長の矢野義昭氏(元陸将補)が「台湾・尖閣有事~日本はいかに中国の侵略に対処するか?」と題して講演した。矢野氏は、尖閣を守るためには日台の連携強化が必須であるとし、「情報交換やサイバーセキュリティー協力、米国並みの台湾関係法、武器供与まで踏み込むべきだ」と主張した。以下は講演要旨。

日本安全保障研究会会長 矢野義昭氏

 やの・よしあき 1950年大阪生まれ。京都大学卒業後、陸上自衛隊入隊。兵庫地方連絡部長、第一師団副師団長兼練馬駐屯地司令などを歴任。2006年退官。最終階級は陸将補。日本安全保障研究会会長、岐阜女子大学特別客員教授などを務める。

 現在の世界情勢は、米中覇権争いの「超限戦」時代だ。超限戦とは、目的のために手段を選ばず、創意を尽くしてあらゆる限界を乗り越えるという意味。コロナ禍や、金融、技術、浸透工作(影響工作)、諜報、サイバー、選挙操作(世論工作)などを行っている。

 民主主義体制や、自由主義、法の支配の尊重などの既存秩序に正面から挑戦しているのが習近平体制下の中国共産党だ。

 直近10年間の、主要国の国防費の変化を見てみると、ロシアは年率1割以上の勢いで急増している。現在はGDPの3%近くだ。それに並んで中国も一貫して増強している。10年間で2・44倍に増えている。朝鮮半島も南北ともに急増傾向にある。

 ところが、日本と米国はほとんど伸びていない。米国は世界最大の軍事費を使っていて、戦費も入れると2021年度は、約7500億ドルの巨費を投じている。バイデン政権になり、国防費が削減傾向にあることは間違いないが、7000億ドルを超える予算要求をしている。日本はもともとGDP比に対して1%と少ないが、さらにこの10年でほとんど伸びていない。今後10年くらいの間に、中露と、欧米日の軍事費の総額が逆転するとも言われている。米中間の軍事バランスが、ますます米国にとって不利になり、西太平洋の台湾・尖閣方面でその結果が出ることが憂慮される状況になってきた。

 尖閣諸島は、台湾と石垣島から共に約170キロメートルの距離に位置し、沖縄本島からは約410キロメートル離れているのに対して、中国本土からは約330キロメートルと、中国の方が近い位置にある。離島であり、本島から遠いため、防衛には不利な状況だ。中国は尖閣諸島と台湾を「核心的利益」と呼び、太平洋に出るための門を閉ざす一対の「閂(かんぬき)」だと主張している。中国共産党にとって「祖国統一」は最優先任務の一つだ。建国100年に当たる2049年ごろまでに、「米軍をしのぐ世界一の軍隊の建設(強軍夢)」を目指している。「強軍夢」の実現は、「中華民族の偉大な復興(中国夢)」、「人類運命共同体(世界夢)」の実現の基礎であり、人民軍の最優先任務は「領土統一の完成」、すなわち「核心的利益」とする尖閣を含む台湾の併合だ。そのためには、必要であれば武力も行使する。

 台湾は戦略的に見ると「不沈空母」だ。上海沖合にある舟山群島と海南島までを結ぶと、中国の海上防衛線になると同時に、大陸東南の6省市を掩護(えんご)する戦略的縦深であり、まさに中国の海洋国家としての生命線だ。また中国のみならず、地中海、インド洋、ペルシャ湾を結ぶ関係国(米国、日本、韓国、インド、ロシアなど)にとって重要な航路帯であり、この航路帯を制することができれば、これらの国々に対して、戦略的優位を得ることができる。

 そのためにも近年中国は陸海空戦力の増強を進めており、全米本土を射程に収める新型ICBM「東風(DF)41」の発射装置を備えた地下格納庫約230基の建設が今年2月以降に確認されている。米国防総省は、現在200発台前半とみている中国の核弾頭保有数は、今後10年で少なくとも倍増するとみている。(20年9月2日・読売新聞オンライン)

 海警局について見ると、海上民兵と合わせ、中央軍事委員会が海軍と一体的に直接指揮する態勢になっている。海警の艦艇は海軍仕様だが、日本の海上保安庁の船は貨物船仕様だ。衝突された場合、穴が開いてしまう危険性がある。武装では、中国は76ミリ砲を搭載しているが、海保は40ミリ機関砲までだ。また大きさも、海保は3~4千トン級、最大でも6500トンだが、海警は1万2千トン級まである。千トン級以上の艦艇を130隻以上保有している世界最大規模の質量を誇る「準海軍」だ。しかも、いざとなれば海軍と一体的に運用される。

 石油や食料などの戦略備蓄や、軍の野戦病院化、輸送機関の動員訓練、ミサイルの発射訓練などの戦闘準備を昨年あたりから盛んに行っている。戦争に至らないグレーゾーンの段階から、いつでも実戦に切り替えられる態勢づくりを進めている。

 今年2月の改正海警法の中で、中国が主張する「管轄海域」の範囲が不明確だ。国際海洋法条約では「管轄海域」という概念はない。内水か領海か、接続水域、あるいはEEZ(排他的経済水域)、公海しかない。しかし中国は、この「管轄海域」において、外国の船舶が危険な行動を取った場合、武器使用ができると定めている。いざとなれば海警が防衛作戦に従事するとも書かれている。その発令要件も不明確だ。これは非常に武力紛争のリスクをはらんでいる。いつ恣意(しい)的に適用されるか分からない。

 さらに、今年9月1日から施行される、改正海上交通安全法では、外国船が中国の領海の安全を脅かす可能性があれば、退去させる権限を海事局に与えている。海事局は海警を管轄する部署だ。ここでいう「外国船」には公船も含まれている。通常の海洋法においては、軍艦や公船は強制退去の対象に含まれない。

 しかしこの「外国船」は海保も対象になる。中国は(尖閣周辺を)根拠もなく領海だと主張しているが、9月以降、海保に退去勧告をしてきた場合、衝突が起こる可能性がある。あるいは、海上民兵を先に上陸させて、その保護を目的に領海に入って来る可能性もある。そういった尖閣への脅威はいつでもある。それは台湾(有事)と連動する。

 いったん占領を許してしまった場合、取り返すことは容易ではない。いきなり米海空軍が出てきて、奪還のために血を流すことは期待できない。米軍は後方から掩護したり情報提供をするなど、自衛隊を「支援し、及び補完する」役割しかないことは『新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)』でも規定されている。

 日本が尖閣を守るためには、日台の連携と早期の自立防衛態勢の確立が必須だ。台湾と情法交換やサイバーセキュリティー協力、米国並みの台湾関係法、武力供与まで踏み込むべきだ。最終的には台湾の国家承認をし、国交回復して日台相互防衛条約の締結までやらないと(日台の連携は)実体を持たない。特に防衛では、地対艦・防空ミサイルの火力調整や、東シナ海、南シナ海における潜水艦戦の相互支援、全体的な防衛計画の相互調整・共同計画・共同訓練も進めていく必要がある。