今年も年初から目が離せない子宮頸がんワクチンの副反応被害問題
検討部会を日経詳報
重篤な副反応(投薬による場合の副作用)が出て問題化した子宮頸(けい)がんワクチン接種については、厚生労働省の副反応検討部会(以下、検討部会)が昨年6月14日に「積極的な勧奨を一時、差し控える」と決定し、ワクチンの効果と副反応の情報を提供できるように副反応の重さと頻度などの調査をすることになった。
その調査結果を発表し、内容を検討してワクチン接種の積極的勧奨を再開するかどうかを決めるとみられた検討部会がクリスマスの旧臘25日に開かれた。検討部会では7人の医師(被害者を診断してきた2人の医師を含む)が所見を発表したが、大半は積極勧奨の再開を後押しする内容。「同部会は、明らかに『勧奨再開』を決めるために準備していた」(小紙「あすへのノート」(12月30日付)ことは「最後に登場した医師が子宮頸がんの怖さを述べ立て、積極勧奨を再開しなければ『日本だけが子宮頸がんを撲滅できない国として取り残される』と述べたことでも明らか」(同)という。不安を煽(あお)って何とか昨年中に「積極勧奨再開」を決め込もうとする意図がありありと感じられたと。
だが、この日は結論を今年1月にも審議される次回部会に持ち越して閉会した。再開判断を先送りしたのは、なぜだったのか?
検討部会の内容は翌26日付各紙記事が報じた。最も大きく詳報したのは日経で、第2社会面に「治療で64%が改善」の4段見出しを立てた。「治療を継続している患者の約64%が『著しく改善』『改善』と答える一方、効果がない人も33%に上った」と研究班の診断結果を伝えた。「64%が改善」とする見出しからは、ワクチン副作用の治療が相当に進歩したようにとれるが、記事をよく読むとそうでもない。調査は11病院を受診した85人のうち治療を継続している36人の頭痛や腰痛など「痛み」についてだけのものだからだ。それだけのことですら治療効果のない人が「33%」に上ることの方に目を向けるべきだろう。
日経は、全身の倦怠(けんたい)感や睡眠障害などの症状の人が多く「不登校や欠席など学校生活への影響が出ている人も41人」と半数近くになることも伝えている。また検討部会を受けて被害者団体代表の会見も写真付きで掲載したのも日経だけ。「被害を防ぐために中止しなかったのは残念」「被害にあった子供や女性の救済と治療の確立に早急に着手し、被害者を救ってほしい」などの訴えを伝えた。接種勧奨の再開が本音の厚労省の仕切りに乗った見出しはともかく、データを詳細に示しバランスをとって報じた記事の質は高いと評価できる。
朝日は都内面止まり
産経と朝日も見出しは同様に「『全身の痛み』改善6割」(産経)、「痛み半数で改善傾向」(朝日)の2段見出し、第3社会面の扱いである。それぞれ30行余の記事では、日経のように厚労省ペースに乗った見出しを、詳細なデータを盛り込んだ記事で補完することなど適わない。底の浅い記事である。
昨年6月に勧奨一時中止となった子宮頸がんワクチン副反応問題は、朝日の被害者報道が先鞭をつけた。社会面と都内面に掲載の2本の記事「子宮頸がんワクチン/中学生が重い副反応・杉並区、補償へ」「母、追跡調査求める」(昨年3月8日付)がそれで、その後も、この問題をリードして追及報道してきた。
しかし、記事の多くは杉並支局の斎藤智子記者の記事で、掲載も全国版の社会面掲載ではなく、地方版の都内面である。被害者サイドを丹念に取材・フォローした足で稼いだ記事と言っていい。被害は全国に広がっているのに、せっかくの記事が全国版面には載らない不可思議。これに対して、厚労省サイドの取材から発信される記事は今回の記事のように、発表の垂れ流しに近く、どこか厚労省ペースに乗せられた感じがするのを否めない。もっとも、これは朝日だけのことではないが。
精力的報道の続行を
最後は小紙。この問題に先鞭をつけた朝日を追って、この問題をめぐる被害者、地方議会の議論と勧奨不再開を求める意見書決議などを精力的に報道してきた。検討部会については26日付第1面準トップ「接種の勧奨中止を継続/「『打たない選択を』の指摘も」の3段見出しで報じた。折よく配信された時事通信「『自社に有利』な論文執筆/市民団体 ワクチンメーカー批判」の記事もセットで掲載した。子宮頸がんワクチン副反応問題とその報道については、今年も年初から目が離せないのである。
(堀本和博)