子宮頸がんワクチン被害者の救済 北海道議会議員 柿木克弘氏に聞く
被害者救済の輪を広げたい
子宮頸(けい)がんワクチン接種によって深刻な副反応が生じると報告されて数年がたつ。北海道美唄(びばい)市では、接種を受けた女子高校生が全身痙攣(けいれん)や脱力感で生活に支障を来すなど重い症例が報告されている。一方、子宮頸がんワクチンの定期接種を勧めた国は現在、積極的な接種を見合わせているが、被害者への対応には動きが鈍い。こうした中で美唄市選出の北海道議会議員・柿木克弘氏が今年2月、被害者連絡会北海道支部を立ち上げた。子宮頸がんワクチン接種の問題性と今後の被害者救済支援運動の方向性について柿木克弘道議に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)
連絡会北海道支部を立ち上げ/実情訴え国に早急な対応迫る
9時間も全身痙攣の発作/動き鈍い行政や医療機関
――柿木道議が子宮頸がんワクチンの問題に取り組み始めた経緯についてお話しください。
私の地元の美唄市で昨年6月、子宮頸がんワクチンを接種した高校1年生の女子生徒が副反応によって苦しんでいるという報告がありました。その時はまだ面識もなく、その子の具体的な症状を把握することができませんでしたが、10月23日に佐藤美也子さんという被害者の母親にお会いすることができました。そこで、娘さんが被害に遭った経緯、現在の状態などについてお話を伺いました。
それから半月ほどしてテレビ局がその子を取材したいと私のところに依頼があり、11月19日の夜に私の事務所に佐藤さん親子に来ていただいたのです。取材が始まって1時間ほどした午後9時ごろ、娘さんが突然全身痙攣の発作を起こし始めました。
私は母親の美也子さんに「救急車を呼ぼう」と言ったのですが、彼女は「これまでにも周辺の病院に行ったのですが、たらい回しにされるばかりで、『原因は分からないので治療のしようがない』と言われるだけ。ですから救急車を呼んでも意味がないので落ち着くまで待ってください」と語るので痙攣が収まるのを待ちました。
しかし、全身の痙攣は翌日朝の6時ごろまで続いたのです。それまで子宮頸がんワクチンについては新聞やテレビで、いろいろな問題があるとは聞いていましたが、実際に被害者の実情をこの目で見て、これはただ事ではない、本腰を入れて対応しなければとんでもないことになると実感しました。
――子宮頸がんワクチンの副反応はかなり深刻な症状が出るといいますね。
9時間も全身痙攣の発作が続くというのは異常です。副反応には頭痛や関節痛、持続的な疼痛(とうつう)、脱力などの症状が出る方がいます。また記憶喪失など重度の意識障害を起こし、長期間の身体的苦痛に苦しむのが副反応の特徴です。実際に佐藤さんの娘さんも記憶障害に陥り、美也子さんを自分の母親とは分からないというのです。
高校1年生というのは、一番楽しい時で、佐藤さんの娘さんも高校ではエアロビクスを習うなど運動神経もよかったそうです。私も同じ年齢の娘がいますが、他人ごとではありません。また、家族を含め被害者を苦しめているのは身体的苦痛だけではありません。さまざまな医療機関を受診しても明確な診断や有効な治療がないために医療費や交通費の負担が大きくなっていきます。
こうした被害者の身体的、経済的な苦痛に対して、行政や医療機関は一刻も早く対応する必要がありますが、実際にはそうはなっていないのが現実です。
――子宮頸がんワクチンの被害者を守るために柿木道議は積極的な運動を展開しておられますね。
私としてはまず、昨年の第4回定例道議会で自民党の代表質問でこの問題を取り上げました。道はもちろん国に対しても被害者の実情を把握し救済のための措置を取るように訴えたのです。それに対して高橋はるみ知事は被害者のための相談体制を新たに整備すると表明しました。
また、道議会としては全国都府県の議会に先駆けて子宮頸がん予防ワクチンの接種に対して慎重な検討と副反応で重篤な症状をもつ被害者の救済を求める意見書を全会一致で議決しました。
一方、今年に入って2月21日には全国子宮頸がんワクチン接種被害者連絡会北海道支部を立ち上げ、代表に佐藤美也子さん、副代表に恵庭市の金澤千世さんに就いていただくことが決まっています。金澤さんの娘さんは美唄市内にある公立の看護学校に通っていましたが、副反応が原因で学校を中退せざるを得なくなり、現在は通信制の高校に通っています。
私は北海道支部の事務局長として、広報を通じて子宮頸がんワクチンの問題性を提起し、原因究明と被害者に対する早急な救済と支援を求めていきたいと考えています。
――国への働きかけ、あるいは地元美唄市への働きかけはいかがでしょうか。
今年2月に厚生労働省に出向き、同省の健康局長、予防接種室長、感染症課長と面談し、窮状を訴えてきました。国は検討すると答弁しただけでしたが、我々の要請を直に彼らに訴えることができたのは意義があったと思います。
一方、地元の美唄市に対しては、市議会議員らとともに市の取り組みについて見解をただしてきました。美唄市長はこれまでの対応の拙さを陳謝するとともに、市独自の支援を検討し、国に対しても早期救済を求めていくという方針を打ち出すまでになりました。
さらに、美唄市は今年5月に平成22年度から24年度まで接種された方618人を対象に健康調査を実施しました。体調の変化、副反応の症状、症状の継続期間、さらには接種者の意見などかなり詳しく調査しています。ちなみに同調査によれば、接種後にだるさ、手足の痛みやふるえ、頭痛、めまい、吐き気、記憶力低下といった症状が出たことがかなり多く報告されています。
――柿木道議は以前から子宮頸がんワクチンの接種には疑問があったとおっしゃっていましたが。
私自身は子宮頸がんを予防するにはまず、ワクチンを投与する前に子供たちには検診をしっかり行い、きちんとした性教育を施すことが先決だと考えています。ですから、私は自分の娘には接種させませんでした。
ただ、子宮頸がんワクチンの安全性が担保されれば、それはそれでやむを得ないものかなとも思っています。仮に副反応が出ても、それに対する治療技術や支援体制がしっかり構築されているならば反対はしません。
ただ、国は今なお、被害者とワクチン接種の因果関係を認めておらず、接種した際の痛みによる心因性のものというのみで、しっかりと対応しているとは思えません。現在、積極的な接種を見合わせていますが、再開しようという動きもあります。
しかし、一方では現実に一生を台無しにするような副反応による症状がいくつも出ているわけですから、単なる心因性の問題として片付けられるものではありません。この問題は長期戦になると思いますが、被害者の家族と最後まで行動を共にし、支援していく覚悟で取り組んでいきたいと考えています。