高齢者の生き方


 数日前、実家の母親に電話すると、普段とは違う嬉(うれ)しそうな声で話し始めた。県外に住んでいる次男(筆者の弟)夫婦と孫が家族で「おばあちゃん孝行」に来てくれたという。夏のお盆は孫のアルバイトの都合で会うことができなかった。多くの祖父母と同様、高齢で独り暮らしの母親にとっては孫のために世話を焼くことが格別の喜びのようだ。

 敬老の日に合わせて発表された総務省の人口推計では、65歳以上の高齢者は3588万人。全人口の28・4%になった。その中で仕事に就いている人は過去最多の862万人。従業者全体でも13%を占めている。65~69歳の年代では半数近く、70~74歳では30%の人が就業しているという。時代の要請もあって、「65歳以上の高齢者」というイメージが変わりつつある。

 筆者が住むアパートには70代以上の高齢者が多く住んでいて、周辺の清掃を毎日やってくれる人たちや毎朝必ず小学校の通学路に立って子供たちの見守りを行っている女性もいる。元気な声が印象的なその女性は、地域の高齢者のリーダー的存在だ。

 一方で、周辺の住居では孤独死の高齢者が発見されたという話を何度か耳にした。決して人口が減っている地域ではなく、近年の再開発で若い世代の人口が増えている地域である。

 近年は終活が盛んだが、残りの人生をどう充実させるかはそれほど簡単なことではないだろう。発達心理学の分野に「祖母仮説」という説があるが、心豊かな高齢の女性が子育てなどで身近な家族や地域を支えると、その家族や地域は栄えるという。毎朝子供の見守りを行っている女性も、子供たちのために心を配ることが喜びだという。次の世代のために行動したいというわけだ。筆者の自戒もあるが、人生はできるだけ地域社会、そして次の世代のために何かの貢献をすることを考えることが、充実した人生と言えるようになるのではないかと思う。

(誠)