今どきのお墓事情


 遠くの墓地を墓じまいし、住まいの近くに新たに墓を持つ人が増えている。今、首都圏は空前の墓ブームである。わが家の近くの永代供養墓の霊園チラシには、樹木葬墓など「お一人様」「ご家族お二人様」に向けた多様なプランが並んでいる。一昔前には考えられないほど簡素化している。

 立地の良さに惹(ひ)かれ、お盆休みに霊園の担当者に話を聞いてみた。格安で管理費不要、合同・合祀(ごうし)の永代供養墓が今は一番ニーズが高いという。箱根の立派な墓地を畳んで、簡素な永代供養墓に移る人など、経済力に関係なく子や孫に面倒を掛けたくないというのがあるようだ。

 わが家の場合は先祖代々日蓮宗の墓を守っているため、他宗派の人は寺の墓に入れてもらえない。クリスチャンの知人が所属する教会でも宗旨をめぐってもめ事になる場合があるという。夫が洗礼を受けていない70代の婦人は悩み抜いた末に夫婦別々の墓に入る決断をしたという。墓が親子関係、さらに夫婦関係にまで亀裂を及ぼすとなるとお墓はいったい、誰の為(ため)に何の為にあるのかということになる。

 霊園の担当者の話によると、首都圏にはさまざまな理由で墓を持てず自宅に骨壺(こつつぼ)を置いている家が100万世帯もあるという。筆者の姉の家がそうである。早死の愛娘をどこに埋葬するかで折り合いが付かず、いまだに納骨をしていない。

 墓を持つ煩わしさから、散骨あるいは簡素な合同墓にして、家の祭壇で毎日手を合わせ、供養する方もいる。お墓と先祖供養は一体的なものだったが、お墓の意味合いが変わっていくと、先祖供養のあり方も変わっていくのかもしれない。

 帰り際、霊園の担当者が「今どき駅から15分の立地に永代供養墓を持てるのは幸せです」と話してくれた。しかし、今から眠る場所を決めてしまうと、何だか早く逝ってしまいそう。墓選びの前に、まだやるべきことがいっぱいある。

(光)