お盆に行う逝く準備
お盆が近づくと、祖母とご先祖様の霊を迎えるための盆棚をまつったことを思い出す。しかし、核家族が普通となった今では、仏壇がない家が増えて、お盆の準備をする家はめっきり減っている。
だが、ご先祖様の霊を迎える家が少なくなったとしても、誰でも必ずあの世に逝く。特に今は、超高齢社会で、間もなくあの世に逝く人がいっぱいだ。だから「終活」ブームが起きるわけだが、逝くことだけ考えて、迎えるという観念が消えるのはわびしい。
最近、地元自治体が「リビング・ウィル」(生きる意思)をテーマに家族介護教室を行ったので参加した。リビング・ウィルとは、重病になって、自分自身で理性的な判断ができなくなった際、治療についての希望を記しておく書類のことだ。
教室では、ベテラン訪問看護師が書類の作り方をアドバイスしてくれるという触れ込みで、準備していた席はほぼ満席。主催者は「こんなことはめったにない」と大喜びだった。これも、あの世に逝くことを考え始める年齢の人が大勢いる証左だろう。
用意された書類には、「あらゆる活動による延命を希望する」「継続的な栄養補給は希望しないが、点滴などによる水分補給は希望する」「治療の判断を(指名した人に)委ねる」など六つの選択肢があったが、筆者が選択したのは「水分補給も行わず、自然に最期を迎えたい」。しかし、この意思も状況の変化に応じて変わっていい。大切なことはかかりつけ医や身近な人と話し合い、自分の意思を残しておくことだという。
訪問看護師の話で、印象的だったのは次の言葉だ。「残された家族のことも考えてください。最期まで頑張って介護したという気持ちも大切です」
送る側の気持ちを考えずに、自分だけでリビング・ウィルを残すと、お盆に快く迎えてもらえないかもしれないな、と納得した。
(森)