「心の終活」恐るべし
40年ぶりに相続法が改正されたこともあって、終活講座が大盛況である。先日、行政書士の知人に講師をお願いし、地元の公共施設で「心の終活」講座を開いたら、主宰者の予想を超え、大入り満員だった。参加者は50代から最高齢は90歳。「10年前、夫を亡くし、今は独り暮らしです」と言う来場者も。
講義の後、フリートーキングで真っ先に手を挙げたのは最高齢の老婦人。「空き家になった実家の土地に他人様が勝手に家を建て、20年以上住み続けている、どうしたらいいか」。認知症の家族の介護をしている70代男性は「延命治療はしたくないが、本人の意思確認が取れなくても、大丈夫なのか」――等々。
そのうちに、参加者の一人が父を看(み)取った時の体験談を話し始めると、自然にピアサポートの会のようになり、初対面とは思えない本音の交流が始まった。
なぜ、人は終活に勤しむのか。葬儀や墓も多様化し、老後が長くなったこともあり、自分の人生の終わり方をあらかじめ考え、準備する余裕が出てきたからだろう。
そんなふうに昨今の終活ブームを理解していた。
確かにその通りだが、わざわざ講座に足を運ぶのは心の不安があるからだ。子供が離家し、夫婦の片方に認知症が発症し、それが進むと不安な心が増してくる。また配偶者が他界し、独り暮らしが続くと人付き合いも狭まり、些細(ささい)なことで心細くなる。
かつては隣近所の井戸端会議で解消していたのだろうが、マンション暮らしは、ご近所付き合いがない。終活講座は雪だるま式に増えていく、高齢社会の不安や心配を解消する、井戸端会議と言えなくもない。
人口推計では20年後、単身高齢世帯は4割となる。講座が終わると、晴れやかな顔で「来月もまた来ます」と90歳の老婦人。「心の終活」、恐るべし。
(光)