高齢者の運転免許返納


 高齢ドライバーによる交通事故死が相次ぎ、高齢者の免許返納が増えている。

 ただ、決して高齢ドライバーの死亡事故が増えているわけではない。全体の死亡事故が減っている中、高齢者の割合が高くなったということだ。とはいえ、高齢運転は大事故につながりやすい。高齢ドライバーによる死亡事故の半数近くが認知症の恐れ、または認知機能低下の恐れがあると判定されている。

 老親を加害者にさせたくないから、家族は一刻も早く車の運転を諦めさせたいと願う。ただ人間の尊厳に関わること故、家族といえども、強引にはできない。ましてや公共交通がない地方の田舎では「免許返納しなさい」と言って、すぐ決断できることではない。

 筆者の場合は、父が83歳、母は確か80歳の時に自主返納した。それまでに何度か話はしたが「分かった」とは言わなかった。父の時は、相手にケガはなかったものの、車に傷を付け、相当額の損害賠償を払う羽目になり、運転を断念した。

 母の時は、庭木の枝切り作業中に脚立から転落し、入院したのがきっかけである。以前から返納の時期を考えていたのだろう。軽い事故や出来事を通し、自ら悟り、返納を決めた。

 痛ましい事故を耳にすると、大事になる前に返納して良かったと口にする。その一方、父は時折、運転できなくなったことで行動範囲が狭くなり、通院のたびに誰かの世話になることを嘆くこともある。

 つまり、免許を返納させて終わりというわけではない。できる限り以前と変わらない暮らしができるように、その後の生活への配慮が大切である。

 10年後、認知症高齢者は推定700万人と言われている。車がなくとも徒歩圏内で病院、買い物、行政サービスといった生活の必要が満たされ、地域がつながり、高齢者を孤立させない社会づくりを考えていかないといけない。

(光)