「我が子」迎え、本当に幸せ
実際の父母と法的な親子関係を解消して養父母と親子になる「特別養子縁組制度」―。同制度で念願の“我が子”に出会えた夫婦がいる。昨年、子供を特別養子縁組で迎えたと発表した元宝塚歌劇団トップスターの女優・瀬奈じゅんさん(45)と千田真司さん(35)の夫婦は先月30日、都内で開かれた日本財団主催のイベント「よ~しの日2019」に出席し、養子を迎えることになった経緯や子育ての中で感じた思いを口にした。(石井孝秀)
日本財団が特別養子縁組の啓発イベント
最初に養子を迎える提案をしたのは夫の千田さんからだった。不妊治療を続ける中で、肉体的にも精神的にも苦しむ瀬奈さんを見るに見かね、「特別養子縁組でも家族はできるんじゃないか」と相談を持ち掛けた。
その時の心境を瀬奈さんは「あなたの子が欲しいから私は頑張っているのに、という思いがあった」と打ち明ける。しかし、夫への信頼から「間違ったことを言う人ではない」と思い直し、自ら特別養子縁組のことについて調べ、興味を持つようになった。
子供を育てる方法には、さまざまな事情で家族と暮らせない子供を18歳になるまで預かり育てる里親制度もあるが、「戸籍上でも実の子供として責任を持って育てていきたい」という思いから、特別養子縁組一択だったという瀬奈さん。会場から特別養子縁組で一番うれしかったことを尋ねられると、「『我が子』に出会えた喜びというこの一点に尽きる。こちらも成長しながら夫婦間の絆も強くなった」と語った。
子供は今年の初夏には2歳を迎える。千田さんは「血は繋(つな)がっていないが、妻の几帳面(きちょうめん)な性格を受け継いでいる。引き出しからお気に入りのタオルを出したらきっちり閉めたり、絵本を置く場所が決まっているなど、ここまで似るんだなと感じる」と話す。
自分たちが本当の親ではないと子供に伝える「真実告知」も早い段階で行うことを考えているという。「早い方が子供のためになると説明を受けた。今は話をしても分からない状態だが、いつか来るべき時に備えて、一緒にお風呂に入りながら伝える練習をしている」と千田さんは話した。
イベントには養子縁組に関心のある夫婦など約150人が参加し、真剣に登壇者らの体験談を聞いていた。瀬奈さんは「我が子を迎えて、大変だが本当に幸せな毎日を送っている。いろんな事情や思いを持つ方もいるので、特別養子縁組を勧めるとまでは言えないが、選択肢の一つとして正しい知識を知ってもらうことを望んでいる」と参加者に呼び掛けた。
特別養子縁組制度
子供の福祉増進を図るため、養子となる子供の実親との法的な親子関係を解消し、養親が実の子と同じ親子関係を結ぶ制度(普通養子縁組では血縁の親との関係は継続する)。今年1月、法制審議会(法相の諮問機関)の特別養子制度部会は、現在の原則6歳未満となっている特別養子縁組対象者を15歳未満まで拡大する要綱案をまとめた。法相への答申を経て法務省は通常国会に民法などの改正案を提出する方針。