フレイルを予防するために
東京都健康長寿医療センター 重本和宏副所長
『「フレイル(虚弱)」ってなに?~自立した老後を過ごすための予防、診断、対策~』をテーマに東京都健康長寿医療センター研究所主催の老年学・老年医学公開講座が東京都北区の「北とぴあ」でこのほど開かれた。同センター副所長の重本和宏氏は要介護になる前の状態に陥らないために「フレイルの予防になぜ運動と食事が重要なのでしょうか?」について紹介した。
運動・睡眠が脳内リンパの流れ強め老廃物を洗い流す
近年、体の中で免疫をつかさどる細胞の機能を制御する、さまざまなサイトカインやその他の蛋白(たんぱく)が、骨格筋から分泌されていることが報告されている。IL-6という物質は運動後、30分に骨格筋内での生産量が運動前の100倍くらい分泌される。全身の臓器で脂肪酸の取り込みと、エネルギー産生が増加することや、脂肪組織の分解やグルコースの取り込みを増加させ、運動時のエネルギー需要に適応できるように代謝の制御を行うといわれる。
IL-15は運動により発現が誘導され、体脂肪率を低下させる役割を持っていることも分かってきた。アイリシンという物質も運動刺激により遊離され、白色脂肪細胞を熱エネルギーに転換しやすいベージュ脂肪細胞に転換させ、太りにくい体質に変化させる。カテプシンBは脳に作用して認知機能を高める作用がある。その他、IL-10やIL-1受容体アンタゴニストが炎症を抑えることやIL-6とIL-15がナチュラルキラー細胞の成熟と移動を促進することや、大腸癌(がん)細胞を細胞死に誘導するSPARCの存在も報告されている。
適度な運動、良質な睡眠、規則正しくバランスの取れた食事を摂ることで、体内時計のリズムを正常に動かすことができる。
脳実質内にはリンパ管が存在しないことから、脳内で生じた老廃物や有害物質などを排出する経路や栄養素が脳実質内で運ばれる経路は、よく分かっていなかった。脳室の脈絡叢(みゃくらくそう)という所から生産された脳脊髄液は老廃物を脳室に捨てるゴミ箱のようなものと考えられていた。
2013年フィンランドの研究者はマウス段階の研究で脳内リンパの流入と排出の経路を顕微鏡で観察した。脳脊髄液が動脈壁周囲の間隙を伝い、動脈の拍動と脈絡叢からの脳脊髄液が産生される時に生じるわずかな圧力差を駆動力として、脳表面から脳内の深部へ送られることを発見した。さらに脳血管を取り囲むグリアと呼ばれる細胞突起には水を選択的に通す通路になるチャンネルがあり、排出された組織間液が脳内老廃物を洗い流し、静脈周囲の間隙を伝って排出される経路を解明した。認知症の原因とされるβアミロイドの洗い流しもしている。適度な運動と良質な睡眠、頭を寝かせた状態にあると、効率的な洗い流しと排出の経路を活性化させることができる。
中高年になると、徐々に身体機能が減弱していく時期があり、やむを得ない。だが、規則正しい日常生活を送り、食事や運動、良質な睡眠を得るよう注意することで、フレイルの状態から、サルコペニアや認知症が引き金になって、要介護状態へと急激に進んでしまわないようにできる。






