元旦の小さな冒険
子供の頃、NHKの「紅白歌合戦」「ゆく年くる年」を見た後、近くの神社に、家族で初詣するのが、わが家の元旦行事だった。
小学低学年だったと思うが、筆者がぐずぐずしていたので、家族が先に神社に向かい、1人取り残されたことがある。すぐ後を追おうと思い、玄関を出たが、家族の姿はどこにもない。
神社までの距離は1㌔余り。田んぼの中の細道で、民家は数えるほど。もちろん、外は真っ暗で、途中にはお墓もある。心細かったが、家族を追い掛けることにした。
真っ暗な道を速歩きしていると、偶然、同じ神社に向かう高齢者と出会った。「1人で初詣に行くの? 偉いね」と、声を掛けてくれた。
「家族が先に行ったので、追い掛けているのです」と、ホッとして答えると、その人は「じゃあ、一緒に行くか」と、優しく誘ってくれた。筆者は速歩きをやめて歩調を合わせた。細かな内容は覚えていないが、鳥居をくぐるまで会話は続いた。おかげで、お墓前も、恐怖心を忘れて通り過ぎることができた。
神社の創建は約1200年前と古いが、鳥居から本殿までは50㍍余りの狭い境内だ。家族がすでに到着していると思い、目を凝らしたが、誰もいない。参道脇に並ぶ大木の根本に座って待っていると、やがて鳥居の下に家族の姿が見えた。
その瞬間、暗闇が明るくなったような不思議な感覚を覚えた。大木の影から現れた筆者を、家族は怒らずに笑って迎えてくれたのも意外だった。
筆者が先に神社に到着したのは、家族が家の裏にある氏神様にお参りしていたからだったが、家族とはぐれたことにより、心細さと家族の温かさ、そして見ず知らずの人の優しさを初めて味わい、一回り大きくなったような気分になった。冒険が子供を成長させることを、筆者に教えた元旦の体験だ。
(森)