睡眠負債~その正しい理解~
体内リズムの乱れでリスクが上昇
江戸川大学社会学部人間心理学科 浅岡章一准教授
「すいみんの日」市民公開講座「睡眠負債~その正しい理解~」(江戸川大学睡眠研究所・柏市共同主催)がこのほど千葉県柏市のアミュゼ柏で行われた。江戸川大学社会学部人間心理学科の浅岡章一准教授はさまざまな事故や社会生活上の問題を挙げながら「生活リズムと睡眠負債」について語り、夜更かしによる寝不足の改善策を指摘した。
交代勤務従事者は仮眠で調整を
十分睡眠時間は取れている、大丈夫と思っている人も、本当に大丈夫か、疑ってみることが必要。昼間に眠気を感じないというのは、普通に考えれば、十分睡眠が取れているということ。だが、眠い状態が普通になると、気付かなくなってしまう。また、夜中に作業すると、うまくいっているような気がすることもあるが、それは、自分の状況を確認する脳機能が眠気に弱く、自らのミスに気付かないために、実際の作業能力は低下していることが多い。数々の実験結果では、眠気が強い際にはミスが増え、スピードが低下するだけでなく、非効率的な仕事のやり方に固執するなど、さまざまな認知・作業上の問題が表れ、効率が低下することが明らかになっている。
生活リズムの乱れは、睡眠不足かどうか、判断するためのヒントになり得る。特に予定のない休みに朝寝坊になるのは、平日の睡眠時間が足りていないため、不足分を休みの日に補おうとする働きによるものと考えられる。午前中は本来眠気を感じない時間帯だがその時間帯に、眠気を感じる(居眠りをする)というのは、睡眠負債を抱えているという証拠ともいえる。一番危険なのは、いつでも、どこでも、すぐに眠ることができるという人である。寝付く早さは眠気の客観的な指標ともいえるため、本人は自覚していないかもしれないが過度な眠気を抱えている可能性が高い。このように、昼間に眠くなったり、日によって睡眠時間が変わるなどの規則性の低下は睡眠不足のサインであるともいえる。
リズムを守ると言っても、仕事をしないわけにはいかない、という交代勤務従事者(早出、日勤、夜勤)では、睡眠時間とリズムの確保が難しく、睡眠負債を抱えることが多い。さらに交代勤務従事者における高血圧、糖尿病、胃潰瘍、乳がん、前立腺がんなどのリスクの上昇が研究で確認されている。さらには、本来眠い時間帯に働くので事故のリスクも高まる。
リスクがあるからと、警察、消防、医療関係従事者など交代勤務従事者を社会から無くすことはできず、安心した生活ができなくなるのも事実である。交代勤務の負担を減らし、従事者の健康・事故リスクを減らす対策を取ることは、社会的な課題でもある。
しかしながら、睡眠の問題によって、作業能力や態度、精神面に影響が出ても一般的には「やる気が無い」「不真面目だ」「不安定な人」「無計画な人だ」と解釈され、睡眠の問題には目が向けられないことも多い。「気力」や「慣れ」で解決できるものではないため、このような問題が睡眠の乱れによって生じる“障害”だと気付き、適切に睡眠マネジメントすることが求められる。具体的には、体内リズムの特徴に配慮した勤務スケジュールの策定や夜勤中の仮眠で体内リズムの乱れを防ぐことが、交代勤務従事者の健康・事故のリスク低減につながる。