乳幼児に生まれつき備わるモラル
先日、世界乳幼児精神保健学会日本支部主催の講演会に参加する機会があった。この中で興味深かったのは、乳幼児に生まれつきの素質として三つのモラルが備わっているという話だった。
講演したアメリカの発達心理学者ロバート・エムディ博士によると、人間は乳幼児から生まれつきと言えるようなモラルの能力を持っていて、それは「互恵性」「共感」「価値付け」だという。これは世界的な宗教の教えにも含まれていて、現代の道徳論にも一致するという。
「互恵性」は、親とのやりとりで、やってもらったらお返しするといったこと。「共感」は生まれながらに持っている。「価値付け」は、親が日々良い行動を見せていると、子供もそれを取り入れて、例えば他の子を思いやる行動ができるようになることだという。
この三つが世界宗教の教えに含まれているとすれば、乳児は生まれながらに宗教心の素質を持っていることが学術的研究からも明らかになっていると言えるのかもしれない。この宗教心、あるいは良心の素質を育てるためには、親子の関係性、コミュニケーションの力がとても大きいことが、講演の中で強調されていた。
ところが最近は、スマートフォンの浸透が一例だが、親子のコミュニケーションに不安があるという。
また、同学会日本支部の渡辺久子会長(児童精神科医)は、かつての日本社会は出産する女性、母親を大切にしていたが、今はそれがない。もっと大切にして、そして母親が輝いて、子供の目も輝く社会を取り戻さないといけないと語っている。また男性には、そういう母子を守る使命があるという。
乳児のモラルを育てるためには、母親という存在をもっと大切にする社会にしなければならないというわけである。
(誠)