時代を振り返る機会


 2020年の東京夏季五輪まであと3年を切った。今年、還暦を迎えた筆者は先の東京五輪の時は小学校1年生で、学校の視聴覚室(畳部屋)にあったテレビの前に並んで座って開会式を見た。当時、夏季五輪は100年に1度回ってくるかどうかだと聞いていたので、「生きているうちにもう一度、日本で見られたらいいな」ぐらいに思っていたが、このままいくと2度目を見られそうだ。

 印象に残ったのは、10月の澄み切った秋空の下、スタンドを埋め尽くす観衆が見守る中で、世界各国から集まった多様な人種と服装の若い選手たちが力強く行進する姿だった。しかし、この時、そのスタンドの中に、21年前に同じ場所で行われた若者の行進を思い起こしていた人たちがいたということは知る由もなかった。

 先の大戦で戦況が悪化し、大学や高等学校などの学生・生徒に対する徴兵猶予が停止されたことに伴い、東京周辺77校が参加して旧国立競技場の前身、神宮外苑競技場で行われた「出陣学徒壮行会」のことだ。同じ10月でも秋雨が降る中、銃を担いだ黒い学帽・制服姿の学生たちが一糸乱れず行進した。その二つの行進の対照は当時のビデオを見ても明らかだが、両方をスタンドから見詰めた作家、杉本苑子(故人)さんの証言や手記に記されている。

 神宮外苑競技場は支那事変(日中戦争)の長期化により日本が開催を返上した1940年の東京五輪でもメインスタジアムの有力候補地だった(結局、駒沢ゴルフ場跡地に決まった)。今は旧国立競技場が取り壊され、2020年東京五輪のメインスタジアム建設に拍車が掛かっている。

 還暦は十干十二支が一回りして誕生年の干支に戻る節目の年だが、何しろ誕生時の記憶はないから現在と比較のしようがない。東京五輪は自分の生きた時代を振り返り、将来を準備するいい機会となるはずだし、そうしたいものだ。(武)