葛西臨海水族園で「海の生き物セミナー」
長野県などから教員23人が実体験
海の生物に触れ、観察して、生態の一端を知り、今後の教育活動に生かしたい、という熱意を持った教員が遠くは長野県、伊豆大島から23人が、東京都江戸川区の葛西臨海水族園レクチャールームで、このほど、行われた「干潟を体験! 環境と生きものを知る」の教員セミナーに集い、メモを取ったり、デジタルカメラやスマートフォンで撮影していた。(太田和宏)
マグロの生態・構造も興味深く
教育普及係解説スタッフの西村大樹氏は「生き物の暮らしぶり、例えば、どうやって泳いでいるのか?何を食べるのか?どうやって身を守っているのか?といったように一種の視点をもって観察することで、子供たちに新たに生き物の面白さ、すごさを発見してもらえます」とあいさつ。海の生き物を大きく分けて、ネクトン(遊泳生物、海の中を泳ぎながら生活している生き物)、ベントス(底生生物、海底で生活している生き物。あまり泳がない魚、貝、エビ、イソギンチャクなど)、プランクトン(浮遊生物、水の中を漂いながら生活している生き物。海の流れに逆らうほどの泳ぐ力がないもの)があることを紹介し、園内の生物の観察を始めた。
細かい分類や生物のいわれなど、諸説あるが、小学校高学年に対して、教師が、生き物の暮らしぶりからの発見、科学的視点を、どのように教えられるかを焦点に、水族園の個性に合わせた説明がなされた。
最初に同園の目玉展示であり、食物連鎖の頂点の一つに立つクロマグロ120匹の“群れ”を観察、スケッチブックを抱え、色鉛筆を手にマグロの絵を描いた。大水槽の“かぶり付き”で座り込んで書く人、少し離れて全景を見ながら書く人などさまざま。
南西諸島周辺で卵から孵化(ふか)し、日本沿岸で餌を求めながら回遊。1~2年後に太平洋を横断してアメリカ大陸西岸に行くものもいる。そこで数年過ごし、産まれて3~5年で成熟を迎え前記周辺で産卵する。
レクチャールームに戻って、柏島で購入されたクロマグロの解凍標本を観察。高速で泳ぐための尾びれの形、急な方向転換のために役立っている背びれ、腹びれを上手に使ってUターンすることなどが説明された。「水槽で泳いでいる時に腹部は銀色をしているが、陸に揚げられると、背中が黒くなる。そこからクロマグロと言われるようになった説もある」と教育普及係移動水族館班班長の雨宮健太郎氏が説明してくれた。参加した教員たちも「ひれとか、結構硬いですね。丸々としておいしそう」などの声も聞かれた。
顕微鏡で見るミクロの世界/プランクトンに親近感も
ひと段落すると、今度は、カワハギやニシキベラなどマグロとは棲(す)んでいる環境や形が違う魚を紹介。また、波間に住むイソギンチャク、カニ、エビなど甲殻類、ベントスの展示区域を観察した。「カワハギの仲間は口先が細くなっている。海水を噴射して隠れている貝を探し出し、“強靭(きょうじん)な顎”で噛(か)んで食べてしまう。カワハギの雌雄の見分け方は、オスの背びれに、たなびく筋が付いてくる。メスにはない」など雨宮氏の解説に教員たちが聞き入った。
クロマグロの尾びれは三日月のような形をしており、餌を追い求め、高速で泳ぎ続けるのに適している。また、尾びれが団扇(うちわ)型をしている魚は、瞬発力のある泳ぎに適している。
フジツボは貝の仲間と思われがちだが、実際はエビ・カニの仲間の甲殻類に属し、流れのある海で、熊手のような形をした「蔓脚」を使って、海を漂って暮らす小さなプランクトンなどを栄養源としている。
ウニは繁殖期になると雌は卵、雄は精子を肛門の近くの生殖孔から海中に放出し体外受精で繁殖する。ウニと同じ棘皮動物のヒトデやナマコも体外受精で子孫を残す。一方、ウメボシイソギンチャクは3㌢くらいの大きさで、潮間帯の上部に生息し、岩の平らな部分に、集団でくっついている。潮が引いている時には、触手をすぼめ、ウメボシのような形をしている。無性生殖によってつくられた細胞を、体の中(胃腔)で保育し時期が来たら放出する。
食物連鎖を考える上で、ネクトン、ベントスを支えているのが植物性・動物性のプランクトンだ。臨海水族園近くの海浜公園の「西なぎさ」とつなぐ橋の近くで採取した海水を網で濾(こ)し、顕微鏡を覗(のぞ)くと、カニやエビ、ゴカイの仲間の“幼生たちが踊りを始める”。食物連鎖の頂点にいる魚でも、卵から孵化した当初は1ミリくらいの非常に小さい場合もあります。大きく成長するマンボウは「一度に3億個の卵を産むが、成魚になるのは1、2匹しかいない」と教育普及係係長の池田正人氏は食物連鎖の厳しさを語る。顕微鏡を覗き込んだ教員たちは「かわいいですね、一度見て好きになった」「こんなに素早いと思わなかった」など口にして、ミクロの世界に感動した様子だった。