「遺伝性難聴の発症を予測し備える」

東京医療センター聴覚・平衡覚研究部 松永達雄部長が講演

iPS細胞の研究発展すれば薬や細胞の移植なども可能に

「遺伝性難聴の発症を予測し備える」

東京医療センター聴覚・平衡覚研究部の松永達雄部長

 東京都医学総合研究所は、このほど、「遺伝子検査で遺伝性難聴の発症を予測し備える」と題して都民講座を東京都千代田区の一橋講堂で開催、東京医療センター聴覚・平衡覚研究部の松永達雄部長を招き、112人の来場者が先天性の難聴における遺伝要素の研究と展望などの話を聞いた。

 遺伝性難聴の研究を始めるきっかけについて、松永部長は以下のように語った。

 以前の勤務先であった言語聴覚障害の専門施設に、先天性難聴を疑われた子が紹介されて来た。ご両親に難聴の診断を伝え、その当時にできる対応として、補聴器による聴覚リハビリテーションの説明をした。原因について、問診、身体所見、画像検査で特別な所見はなく、研究として採血に協力していただいて遺伝子検査も行いましたが、当時の限られた技術では原因が判明しなかった。ご両親から「いつか原因が分かるようになってください」と言われた。原因が分かり、治療ができて、たとえ十分に回復しなくても充実した生活をできるような医療、社会を望んでいますという気持ちがあったと理解した。

 遺伝性難聴の患者数は成人前に発症する毎年2000人くらいといわれる。平均寿命を80年とすると、全国で16万人が発症していることになる。遺伝性難聴は成人後に発症するケースもあるが、把握できていない。

 耳は外耳、中耳、内耳に分かれ、聴神経を伝わって、脳に届く。ほとんどの遺伝性難聴は内耳の蝸牛(かぎゅう)・聴神経で問題が起きる感音難聴。発症から1カ月~数カ月たつと治せないケースが増える。不便を少しでもなくすために補聴器を使ったり、人工内耳を着ける手術が有効になる。中耳とか外耳の問題で起こる伝音難聴は手術で治すことができる。

 遺伝子検査によって、今後の病状が重いのか、軽いのか、進行性・非進行性なのか、聞こえない周波数帯はどれくらいか、薬、手術、補聴器、人工内耳など今後の手だてが分かる。原因と今後の症状がどのように変わっていくか、分かれば、患者・家族に治療の希望を持ってもらえる。

 補聴器がほとんど、効果がないケース、神経に問題がなく人工内耳の治療をすれば効果があるケース、他の病気を誘発するケースなど、さまざまだが、原因が特定されれば、対処法が確立される。

 人工内耳などの不自由を解決する補聴器を使用したり、手術で人工内耳を着けるということもできるが、根本的に完治を目指すという方法は今のところできていない。iPS細胞による再生医療の研究が進み、神経系統や音を感知する細胞組織を再生できるようになれば完治への道が見えてくる。「遺伝子レベルの研究に医師だけでなく、患者さん、ご家族、社会と共に考え、協力を受けながら歩んでいきたい」と講演を締めくくった。