自尊感情には二つある


 「日本の子供たちの自己肯定感(あるいは自尊感情)が低い」と言われて久しい。政府の教育再生実行会議は、子供たちの自己肯定感が低い現状を改善するためにどうすべきか、議論を開始した。

 自己肯定感や自尊感情というと、ほめたり認めてあげたり成功体験を重ねることで高めようと考えることが多い。 ただ、自尊感情を研究している近藤卓氏(日本いのちの教育学会会長、山陽学園大学教授)は、それだけでは不十分だと述べている(『乳幼児期から育む自尊感情』エイデル研究所)。

 近藤氏はスクールカウンセラーとして、「自分に自信が持てない」「何だかわからない不安がある」という子供たちに出会ってきた。そうした子の多くは容姿も学力も十分だったが、ほめられたり評価されても不安や寂しさは消えなかったという。

 興味深いのは、氏が教師たちと議論する中で、自尊感情には二つの領域があると考えたということ。一つは、ほめられたり認められたりして育つ「社会的自尊感情」で、一般的に言われる自尊感情はこれにあたる。万一失敗したり叱られたりすると、とたんにしぼんでしまい、その子は生きる力をなくしてしまう。

 それに対して「基本的自尊感情」は、成功や評価に関係なく自分の良いところも悪いところも受け入れ、自分を大切な存在として尊重できる。人間の自尊感情の根っこになる部分で、これが社会的自尊感情を支え、挫折や困難を乗り越える力になる。自分に自信がない子供たちは、この基本的自尊感情が乏しかったというわけだ。

 近藤氏は、基本的自尊感情を育むのは家庭が最も適していると言う。家庭の基盤が揺らいでいる時代だが、日常的な「共有体験」、ご飯を一緒に食べたり、生き物を育てたり、一緒に本を読んだりしながら喜んだり泣いたり笑ったりすることによって育まれる、と語っている。(誠)