北朝鮮と拉致問題、春風と北風の間で
韓国が大統領弾劾で揺れた日、北朝鮮拉致被害者家族会と同救う会主催の「激動する南北情勢の中で、拉致問題を考える国際セミナー」に参加した。
目立ったのは、「韓国で親北左翼政権ができる可能性への懸念」と「トランプ次期米政権が、北朝鮮トンネルに風穴を開けることへの願望的期待」だった。
韓国の保守派ジャーナリスト、金泌材氏らは、朴大統領打倒デモの後ろに「親北・反日・反韓」の労連がいたと強調し、西岡力「救う会」会長は、以前の韓国政権の対北「太陽政策」は、暑くてオーバーを脱がす太陽でなく、北に心地よい「春風」だったとし、春風再来への警戒心を表明した。
北朝鮮は今年、制裁強化を踏み越え、核とミサイルの実験を重ね、核弾頭化を進めた。
20年前、北で大量の餓死者が出ていた時、私は月刊誌で「北朝鮮の将来予想アンケート」を担当した。日米中韓の専門家や国会議員ら15人に予測してもらったが、現況から見ると、「予想外れ」(内部爆発、平和統一や南の吸収合併など)(×)9人、「1部だけ当たり」(△)5人、「ほぼ当たり」(〇)1人だ。予想が大外れするほど、北朝鮮は「朝鮮半島エネルギー開発機構」、国際食糧援助、太陽政策、6者協議、日朝平壌宣言、中露の経済支援、オバマ流「戦略的忍耐」など、全てを都合よく利用、したたかに生き延びてきたのだろう。
家族の焦燥は極限に達している。そこから「トランプは、神が与えてくれた好機」という声も上がった。トランプ氏にとり、北朝鮮は「ビジネス・ファースト」の対象外だから、強い北風をぶつけそうだ。米議会も最近、拉致被害の疑いが強い米人、デビッド・スネドン氏に関し、詳しい調査を求める決議を採択しつつある。
02年に北朝鮮の金正日総書記が拉致を認めたのも、小泉日本の背後に強硬なブッシュ米政権の顔を見ていたからだろう。金正恩第一書記も安倍日本の向こうの北風に動かされるかもしれない。そんな一縷(いちる)の期待である。
日本政府への不満・注文も多い。「14年のストックホルム合意を廃棄すべし」「被害者救出に的を絞っていない」「真の圧力をかけていない」「自衛隊は被害者救出訓練を始めるべき」などの強硬論が、政党代表や家族から相次いで出た。
最近、「週刊金曜日」誌が、「拉致事件を利用し、そこから逃げた男」と安倍首相をこき下ろした。現拉致担当相が7つものテーマを抱える兼業大臣だからという。親北誌に同調はしないが、担当大臣がすぐ代わり、そのたび横田めぐみさん拉致現場の視察から始めるのでは、日本政府の本気度が見くびられるだけだ。「取り戻し交渉」体制を充実させること。閣僚と国会議員がもっと支援バッジを着けること。朝鮮総連、破綻した朝銀信用組合の後継組合、一部自治体が補助金を交付している朝鮮学校などへの締め付けを強めること(粛清、独裁を礼賛し、家族会の集まりを見た生徒が、「バーカ」と罵倒した。朝校生もそんな教育より、日本の教育を受けた方が、本人と北朝鮮の将来のためになろう)。
日本が先頭に立ち、国連の制裁をきちんと実行していない国々に、経済援助と引き換えでも実行を促すこと。
来年、日本自身がそうした対北朝鮮圧力を最大限強めた上で、トランプ北風に期待したい。「北朝鮮、人権、拉致などの問題に知識がなかった人たちも政権に入ると思うので、最初の数か月、日本から米政府へのアプローチが重要」(島田洋一「救う会」副会長)なのは間違いない。
(元嘉悦大学教授)