サミットで見たiPS細胞


 iPS細胞(人口多能性幹細胞)をご存じだろうか。京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて作製した“万能細胞”で、山中教授が2012年にノーベル医学生理学賞を共同受賞して有名になった。人間の皮膚などの細胞から人工的につくられ、ヒトのあらゆる細胞に分化できるため、再生医療への応用が期待されている。

 とはいえ、まだ実際にiPS細胞がどのように活用されているのか知る機会は多くない。ところが筆者は幸運にも、先の伊勢志摩サミット取材の際、国際メディアセンター(IMC)横のアネックス(別館)で、iPS細胞由来の心筋細胞シートを目の当たりにした。

 展示場に並ぶ二つのシャーレのうち、向かって右側は重症心不全の患者の心臓に貼ってその改善を図る『ハートシート』で、患者自身の太ももの細胞(大腿部の骨格筋芽細胞)を培養してつくられたもの。既に国内で初めて製造販売承認を得た再生医療製品だという。

 ただ、こちらは心臓の働きを強める補助的な役割を果たすだけなので、病状がもっと深刻な時はやはり、左側のシャーレに入ったiPS細胞由来の『心筋シート』を患部に貼り付けたり、このシートから心臓組織をつくる必要があるのだという。

 残念ながらその時はシャーレのふたの結露によってよく見えなかったが、普段は心筋シート自体がわずかに動いているのが見て分かるのだとか。自分の皮膚から採った細胞から自分の心筋がつくられるというのは、本当に夢のような話だ。

 建築費だけでも28億円以上かけた別館は日本の最先端の技術や伝統的な文化・芸術を体験できるようになっている。世界から集まった報道陣向けのためサミット後は取り壊されるが、5月30日から期間限定で地元の小中学生らが見学している。事情が許す限り、多くの人に公開し、有効に活用してもらいたい。(武)