犯罪生まれる土壌
この連休中に、『凶悪犯罪者こそ更生します』『いい子に育てると犯罪者になります』(いずれも新潮新書)という2冊の本を読んだ。著者の岡本茂樹さんは長年、殺人など重大事件を起こした受刑者の更生のため、刑務所で授業や面談を行ってきた。
本の中で岡本さんが実感をもって強調するのは「受刑者の問題の原点は幼少期にある」ということ。自身が関わってきた受刑者の多くが、幼少期に虐待を受けたり、両親の不仲、DVなどで心に傷を負っていた。いつも親の顔色をうかがい、素直に甘えたり、わがままを言うこともできない。愛されない寂しさ、否定的感情が積もり積もって犯罪という形で爆発してしまう。そうした感情に、受刑者も気付いていないことが多いという。
岡本さんは受刑者に、なぜ罪を犯すようになったのか、自分の内面を振り返らせ、否定的感情をはき出させる。そうすることで初めて自分に素直に向き合えるようになり、被害者への謝罪の気持ちや反省が生まれてくるという。それがなければ、いくら矯正教育で反省させようとしても効果がない。
実は、岡本さん自身も少年時代、問題行動に走っている。しかし、怒らずに何事もないように受け止めてくれた母親の愛情と、担任教師の「無理しなくていいからな」という言葉で立ち直ることができたという。親、教育者にとって教えられる内容だった。
もちろん幼少期の問題が全て犯罪に結びつくのではないが、家庭や親子関係が社会にも大きな影響を及ぼす可能性がある。逆に言うと、家族のつながりをつくることが、人の幸せはもちろん、犯罪が生まれる土壌を防ぐことになる。現在は家族のつながりをことさら否定して個人の自立を強調する意見も一部にあるが、それは決して人間を幸福にしない。本を読んでそんな感想を持った。(誠)