北方領土問題をどう教えるか

北海道師範塾「教師の道」の講座

 常に学び続け、価値ある教師を目指すことを掲げる民間教育団体の北海道師範塾「教師の道」(吉田洋一塾頭)は1月上旬、2日間にわたる冬季講座を開いた。幾つかある講座の中で、今年はワークショップとして「北方領土問題」を取り上げ、小中学校、高校の教師の取り組みはどうあるべきか、について討論を重ねた。(札幌支局・湯朝 肇)

道内の教諭、学生が議論

北方領土問題をどう教えるか

2日間にわたって開かれた北海道師範塾「教師の道」の冬季講座(札幌市)

 「北方4島が日本の固有の領土ということだけでなく、なにゆえに北方4島が占拠されてしまったのか。その歴史的経緯を押さえておかないと、しっかりと子供たちに教えることができないのではないか」

 今月5、6日の2日間にわたって札幌市内のホテルで開かれた北海道師範塾「教師の道」の冬季講座の一コマとして行われた「ワークショップで」で、一人の教師がこう語り、領土問題をテーマにした授業の在り方について意見を述べた。

 5日に行われたワークショップの前講座では北海道総務部北方領土対策本部参事の宗方正樹氏が「北方領土問題と北海道の取組み」と題して、北方領土問題の経緯や道としての取り組みについて説明した。

 それを踏まえて行われた討論会では、学生たちを中心としたグループで「中学、高校の頃、学校の授業で北方領土について詳しく教えてもらったという経験がない。正直、これまで関心を持って見つめてきたとは言い難い」と、率直な感想が聞かれた。

 その一方、「北方領土問題は道東の釧路・根室管内の問題と思わず北海道、日本の問題と捉えることが大切。教える側が北方領土に関心を持ち、歴史的な事実を把握した上で、子供たちに考えさせることが重要だと思う」といった意見も出た。

 北方領土は、4島の面積の合計が5000平方㌔㍍を超え、千葉県とほぼ同じ広さを有する。自然や漁業資源が豊かで、これまで外国の領土になったことのない日本の固有の領土だ。

 今回の冬季講座は、北海道師範塾「教師の道」の創設(平成22年)以来4回目。同塾は、教師自らが研鑚することに加えて、教師を志す学生のための教師養成講座を開設するなど、大学教授や現役教師でつくられたボランティア団体。夏・冬休みには毎回研修講座を開いている。

 今回の冬季講座は「教師に求められるコミュニケーション能力」(北海道教育委員会教育委員・鶴羽佳子氏)、「人づくりは国づくり」(桜井康仁・北海道教育庁総務部政策局教育政策課長)、「気の利かない教師のススメ」(齋藤振一郎・札幌市立元町北小学校教諭)、「小清水町における中小(学校)連携と土曜授業」(寺本聡・小清水町立小清水小学校校長)など、教師にとってあるべき資質の問題、さらには今日的な小中一貫教育の現状とあり方ついて学ぶ内容が並んだ。

北方領土問題をどう教えるか

吉田洋一塾頭

 その中で、北方領土問題をワークショップのテーマにした理由として吉田塾頭は「今年ロシアのプーチン大統領が来日するという話があり、北方領土問題が交渉の一つになる。そうした中で、われわれ教育者もしっかりと把握しておく必要がある」と指摘。

 その上で、「近年、日本周辺を取り巻く国際情勢で、領土問題がクローズアップしている。北海道は戦後、北方領土というかつて日本人が生活していた島が不法に占拠されているという事情を抱えており、領土問題は身近な問題であるはず。(教える中で)領土、領海、領空といった国家としての基本的な主権をしっかり捉えること、そして具体的な社会問題に対して学校の教師もしっかりと向き合っていくことには意味がある」と強調した。

 かつて日本教職員組合(日教組)の教育研究全国大会(2011年1月)で、根室市の中学校教師が授業例として「北方領土がどこの国の領土か分からなくなった。君たちはどう思う」と問いかけた報告があるが、これなどは教育現場を混乱させるものといっていい。

 こうした現状からすれば、北海道師範塾「教師の道」の北方領土問題についてのワークショップは歴史的経緯、主権、現状を踏まえて討論を重ねたという点で評価されよう。