伝わらぬ空気感、人間関係構築には対面授業を
「ROJE関東教育フォーラム」開催
変わりゆく時代 変わりゆく大学~問い直そう!大学の役割~(3)
NPO法人日本教育再興連盟主催の関東教育フォーラムが5月15日、YouTube上でZoomを使った形式で開催された。「変わりゆく時代 変わりゆく大学~問い直そう!大学の役割~」と題して、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の伊藤羊一学部長は濃密な人間関係構築による学生の成長について語った(講演要旨)。
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部伊藤羊一学部長
今年の4月に新設された武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長をしている。兼任でYahoo!、Zホールディングスの企業内大学Zアカデミア学長、グロービス経営大学院の客員教授、ウェイウェイ代表取締役もしている。情報通信技術(ICT)の発展で、武蔵野大学キャンパスとか寮からオンラインで複数の仕事ができる時代になった。
アントレプレナーシップ学部は企業家になるためのノウハウ、学問を学ぶものではない。「高い志と倫理観に基づいて、失敗を恐れず踏み出して、新たな価値を創造するマインド(心とか精神)育成を目指している。社会に貢献できる、価値を創造していける人材を育てたい」と考えている。
一歩踏み出すということは実践するということ。実践中心のカリキュラムを考えている。例えば、古民家を買って、何かをするとか、幼稚園とコラボレーションしながら、何かをするとか。社会で活躍するにはスキル(訓練や経験などによって得られる力量や技術、腕前、熟練)を身に付けることが必要。マインドを鍛えて、実践する。
それぞれが、別々に行われているのはおかしい。気付いたらやってみることが大事。実践して、すぐに振り返って、成功・失敗に気付く。そして、またやってみる。人の成長は気付きの開封であって、それは実践することによって得られる。
そのために、社会の最前線をキャンパスに持って来ようとしている。社会の最前線を知っている人が教員にならないと、学生を指導できない。
教員のすべてが、テクノロジーの専門家、ベンチャーキャピタルの人、コミュニケーションの専門家、マーケター(マーケティング戦略立案者)、コピーライター、教育関係者などで構成されている。社会とつながることで、学生たちは、より実践しやすくなる。
物理的接触で成功体験ホルモンを分泌、対面授業は不可欠
4月に新設されたばかりで、何の結論も出ていない。1年次は全員寮生活をしながら共に学ぶということで、ほぼ対面授業のはずだったが、コロナ禍でそうもいかない状態が続いている。
組織進化の理論にタックマンモデル(チームは形成後、混乱を経て、期待通り機能するようになる)というのがある。チーム形成時から、すべてうまくいくわけではない。当初、混沌(こんとん)・混乱期がある。解決のための話し合いの下で幹事が決まり、規律が形成され、倫理観の醸成、社会常識などが鍛えられ、“圧縮された人間関係”が生まれ、その後、急激な成長が生まれる。それを期待している。
混乱期から急上昇に展開するには、「オレはこう思う」「先生はそう言うけど、違うでしょ」というところを先生と学生が腹を割って対話することが必要。その中から成長が生み出せる。「そもそも、何しに学校に来たのか」「本当にそれで良いのか」「人生、どうするのだ」と問い続け、学生自身に考えさせるようにしている。
知識やスキルを得るにはオンラインでも良いが、人の成長、人間性の成長ということを考えると、対面が重要だと考えている。対面でないと、成功した時のハイタッチなど物理的接触がなくなる。成功体験を定着させる「オキシトシン」と言われるホルモンが分泌されるには対面授業は不可欠だ。
もう一つは、授業を聞いて、周りの学生の「空気感」はオンラインでは伝えられない。「教師の熱」は画面に近づいたり、厳しい顔をしたり、伝えることができる。だが、聞いている周りの学生の「盛り上がり感」というものは、その場に居ないと感じられない。フィールドワークに行ったり、社会と触れ合ってみたり、そういうことを通じて、現場の人と“圧縮された人間関係”を築く。学生の成長を期待している。