夫婦を軸とした住まいづくり


 最初の緊急事態宣言発令から丸1年がたつ。

 大阪府立大学大学院の山野則子教授らが4月に公表した「コロナ禍における子どもへの影響と支援方策のための研究報告書」によると、高いストレスを持つ子供は約3割強。精神的・身体的・その他の負担が増えたという保護者は4人に1人に上った。目に見えない心理的負荷が夫婦関係をぎくしゃくさせ、親子関係にも影響を与えるということは容易に想像できる。家庭内の歪(ひず)みや弱さが表に出たということだろう。

 芥川賞作家の藤原智美氏が20年ほど前に、『家族を「する」家』という本を書いている。家族と住まいの関係に着目し、子供部屋や広いリビング中心に家を考えるよりも、まず夫婦の寝室を基本軸にした住まいづくりを提案している。

 つまり、夫婦関係が険悪であれば、子供は個室にこもり、ネットゲームにハマる。家族関係が悪化すれば、広いリビングは、ただの空間にすぎない。引きこもりや家庭内暴力といった子供の問題は夫婦の寝室にあるといった、実に面白い家族論を展開している。

 首都圏の集合住宅の標準的な間取りは3LDKが多い。しかも60~70平方㍍と狭い。駅から徒歩1㌔圏内に4LDK以上の物件はまず見当たらない。核家族世帯を標準とする3LDKの集合住宅は、在宅ワークしながら子育てできる住環境とは言えない。また夫婦の寝室を重視した間取りにもなっていない。

 コロナにより、在宅ワークを余儀なくされている子育て家庭の中には、都心から遠く離れた緑の多い郊外に転居を考える人も確かに増えてはいる。コロナ禍、日本の出生数は今後激減することが確実となった。次世代のために子育てしやすい住宅環境を早急に整備していく必要がある。子供が巣立った後、“空き巣症候群”や“熟年離婚”に至らないためにも、夫婦の空間を大事にした住まいづくりを考えていきたい。

 (光)