効果見込めない不妊治療の保険適用に異議あり
政府が不妊症カップルの支援策として、不妊治療の保険適用を決めた。これにより経済的理由で諦めていたカップルも不妊治療が可能になり、少子化対策になるというのである。ただ、不妊治療の実態を見ると、日本では妊娠・出産に至る確率は極めて低い。日本産科婦人科学会のデータによると、生殖補助医療の妊娠・出産率は30代前半でも20%前後、30代後半から低下し、40代では5%以下になる。
ところが国の助成制度では妻43歳未満の夫婦、世帯所得730万円未満を条件に、初回治療に最大30万円、2回目以降は最大15万円。治療開始時に妻が40歳未満なら6回まで、40歳以上は3回まで助成される。妻43歳未満という年齢制限は果たして妥当なのか。それに、妻にだけ不妊の原因があるわけではない。夫にもさまざまな機能不全、精子の“老化”もあるわけだから、妻年齢だけで線引きするのもどうかと思う。
晩婚・晩産化の日本は確かに不妊治療のニーズは高い。しかし、ニーズがあるからといって、治療効果の見込めない年齢層に国が助成するのはやはり公平性を欠いている。
生殖医療の技術が進歩したとはいえ、人為的に命を生み出すわけだから、妊娠しても流産リスクや障害児が生まれるリスクも高い。膨大な費用と時間を投入した分、うまくいかなかった場合は母体への影響はもちろん、精神的なダメージは大きい。不妊治療の効果や安全性に関しても、まだまだ不確定な部分が多い。そういった負の側面はほとんど伝えらえていない。
もし、子供を持ちたいという若者の希望をかなえようとするならば、妊娠・出産に関する正確な情報を伝えることの方が少子化対策としても意義がある。拙速に決まった不妊治療の保険適用だが、助成制度への過度な期待が結婚・出産の先送りにつながらないかと懸念している。
(光)