物議を醸す厚労省が示す体罰の定義
改正児童福祉法の4月施行を前に、厚生労働省の検討会が体罰防止ガイドラインで示した体罰の定義が物議を醸している。
ガイドラインでは体罰について「身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんな軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止される」と説明している。
これは国連児童の権利委員会の定義に基づくものだが、この定義に照らすと「他人のものをとったので、お尻を叩(たた)いた」「宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった」等はすべて体罰に当たる。
公開された63件のパブリックコメントには、「具体例に挙げられているような事例は、これまで往々にして一般家庭で行われてきたものであり、子どもの心身の発達等に悪影響を及ぼすとは、到底考えられない」「具体的行為の例示は家庭教育における混乱を助長するだけであり、有害無益なので削除すべき」など、厳しい意見が多かった。
検討会は「体罰等が子どもの成長・発達に悪影響を与えることは、様々な研究から科学的に明らかになっている」と言うが、ガイドラインが示す体罰事例は、どう見てもしつけの範疇(はんちゅう)で子供の成長・発達に悪影響を与えるとは思えない。
虐待児の脳研究に詳しい福井大学の友田明美教授によると、身体的な暴力よりも暴言やDVといった心理的虐待の方が数倍も子供の脳に悪影響を与えると言う。多くの虐待事例を見ると、背景に夫婦間の不和や親子の愛着の問題、育児の孤立化がある。
冒頭の「体罰は法律で禁止される」は、子育てに悩む親にはとても強い言葉である。厚労省は親を追い込むことを意図したものではないと言うが、誤解と混乱を与えるような事例を示すことで、親が子育てに自信をなくし、子供をしつけることを躊躇(ちゅうちょ)してしまうなら、逆効果である。
(光)