希望到来、検査や療法が進歩でがんは治る時代に

東京都健康長寿医療センター・井上聡氏

「ここまでわかった! 高齢者がんの予防と治療」

 「ここまでわかった!高齢者がんの予防と治療」と題した老年学・老年医学公開講座(東京都健康長寿医療センター主催)が東京・王子の「北とぴあ」で開かれた。同センターの老化機構研究部長・井上聡氏は、がんの検査方法、手術・薬物療法・放射線治療などの標準治療の“急速な進歩”をはじめ、免疫療法、分子標的薬での療法が進展し「がんは治る時代になってきた」と患者にとって希望の到来を語った。


ゲノム遺伝子情報を解析、一人一人に合った治療を最適化

 昭和の半ばごろまでは、本人にがん告知は行われなかった。平成から令和に変わった昨今は、告知し、十分に理解・納得してもらい、検査や治療に積極的に取り組んでもらえるようになった。

「ここまでわかった! 高齢者がんの予防と治療」

東京都健康長寿医療センター老化機構研究部長・井上聡氏

 患者の治療において、安全性が高く、現時点で最も効果が高い治療法を標準治療という。一つ目の柱が外科的手術で、悪いものは取ってしまう。その際、正常な機能を損なわないよう、術後の生活機能維持も含めて検討される。二つ目の柱が放射線治療。正常な細胞への影響を少なくしながら、いろいろな放射線でがんをやっつける。三つ目の柱が薬物療法。抗がん剤、化学療法剤を使ったり、ホルモン投与によって、がんの広がりを遅らせるよう調節する。最新治療法としては、がんの細胞設計部(ゲノム)の遺伝子情報を解析して、患者一人一人に合った治療を最適化することができる時代になっている。

 最先端治療法としては、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑博士、米国のジェームス・アリソン博士が発見した免疫抑制阻害によるがん治療法がある。体内の免疫細胞(リンパ球)は異物のがんを退治しようとする。免疫チェックポイント阻害剤PD―L1を使って、結び付きをブロック、攻撃抑制力を解放して本来の免疫力を回復させ、がんを攻撃させるというものもある。

 分子標的薬は、がん細胞だけが持つ遺伝子情報の変化などから、その居場所を見つけて攻撃する方法。正常なタンパク質を持つ正常細胞には傷を付けず、がん細胞だけを取り除くことができる。だが、すべてのがん細胞は遺伝子情報を変えていくことにより、耐性を持つことがあり、治療しても、また増える可能性がある。この薬が効けば、完治する可能性のある「夢の薬」となる。各種の免疫療法の開発は「がんが治る」時代への飛躍を期待させるものだ。

 がんの患部には、いろいろな細胞が集まって、複雑な環境を呈している。その中には、血管から遠く、栄養や酸素の供給不足・乏しい、生き残るには厳しい環境でも生き残る“親玉に当たる幹細胞”がおり、抗がん剤や放射線治療に抵抗する。

 がん幹細胞を患者から取り出し、培養系を確立し、超免疫不全マウスに移植して、病巣を再現、治療薬抵抗性や幹細胞性を明らかにできる。がんの仕組み、遺伝情報などを明らかにして診断・治療、がん治療薬、個別化がん治療の開発ができる技術も開発されている。