ガラケーの携帯
出版業界の大きなビジネスチャンスである芥川賞と直木賞。今年上半期の両賞をめぐり作家、編集者、書店、印刷会社などの動きを追ったNHKの「決戦!タイムリミット 芥川賞・直木賞の舞台裏スペシャル」は面白い番組だった
その中で、直木賞候補の作家が担当編集者らと共に選考結果を待つ様子が映された。テーブルの上に携帯電話を置いて待つのだが、2人の候補ともいわゆるガラケーの携帯だったのが妙に印象に残った
一方、印刷会社の担当者はスマートフォンでやりとりをしていた。作家のように、自分の世界を掘り下げ、発酵させ、創造性が求められる仕事の人は、スマホよりガラケーが合っているのだろうか
そんなこともあって、以前から気になっていたベストセラー、スウェーデン生まれの脳科学者アンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』(新潮新書)を読み、なるほどと思った
この本によると今や大人は平均で1日4時間、若者は4~5時間もスマホを使っており、それが原因で睡眠障害やうつなどの症状が急増、集中力と記憶力も低下しているという。便利さの陰で人間の脳がいかに蝕(むしば)まれているかを縷々(るる)説いている
集中力と記憶力の低下は学力の低下に直結するし、創造的な仕事など望めない。アップルの創設者スティーブ・ジョブズがわが子にiPad(アイパッド)を触らせなかったという話も分かる。作家たちはそのことを、職業的本能で感じているようだ。