日本列島への台風の接近が気になる季節だ。近年は大型化し、被害も甚大化している。
日本列島への台風の接近が大いに気になる季節である。特に近年は大型化し、被害も甚大化している。中国大陸沿岸をゆっくり北上している14号は、そのうち温帯低気圧に変わる見込みというが、大雨被害が心配だ。
かつて台風は「野分」と呼ばれ、日本人はしみじみとした情趣を感じてきた。「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」と『枕草子』二〇〇段で清少納言が書いている。大きな木が倒れ、枝が散乱している様に趣があるというのだ。
昭和のモダニズム詩人、西脇順三郎は、繊細な自然観察者でもあった。エッセイの中でよく台風を取り上げている。「二百十日の大風は日本の風土で最も美しいものであると思う。大風の直後の日、野辺に出て草木のたおれ、葉をつけたままの小枝が地上に散り敷かれているのは心の象徴として美しいものである」(「春すぎて」昭和16年)。
「タイフーンは経済的に見れば日本の運命悲劇であるが夏から秋にかけての自然の風情のうつりかわりは実に哀愁の美を与えてくれる」(「タイフーン」昭和27年)などと書いている。
西脇が『枕草子』を念頭に置いていたか分からないが、同じような情趣を感じたのは確かだ。それは日本人が自然への変わらない感性を持ってきたことを示している。
しかし、こうした季節の情緒が今後も続くとは限らない。台風の大型化による被害の甚大化は、そんな情趣に浸ることを許さなくなっている。