指が曲がった邦人女性カメラマン


地球だより

 スリランカの取材で、邦人女性カメラマンと同行することになった。意欲的な女性で、古都キャンディーでは早朝の5時から起きて、参詣者の撮影に飛び回っていた。

 そのカメラマンの人さし指が曲がっていた。第一関節から右に向いている。

 「今でこそ、女性向きのカメラがいろいろ出ていて便利になったけど、基本的にカメラは男性仕様に作られていて、手が小さな女性がカメラを生業(なりわい)とするにはかなり無理がある」という。

 行楽の記念写真など通常使うには、男女の別なく大して変わりがないものの、カメラマンの仕事は一瞬を撮るために、長時間の待ち時間を要求される仕事でもある。しかも、そのシャッターチャンスを逃したら、二度と決定的瞬間を撮影することは難しいケースも少なくない。

 その意味では、カメラマンの仕事は「待つ」要素がかなり強い。

 しかも、決定的瞬間を逃さないために、待ち時間の間、人さし指をシャッターの上に置いたままにしないといけない。

 そうしたことを続けていて、ふと友人から指が曲がっていることを指摘されたという。

 それまで自分では気が付かなかったものの、なるほど確かに指が曲がっていた。

 「それでショックを受けて、職業病とはいえ格好悪いから、整形手術を受けようかとさえ思った」という。

 「だが指が曲がっているのは、カメラマンとしての勲章だ。金を掛けて指を普通に戻すのは、ゴールドメダルを溶かして普通の金にすることと同じだ。金の勲章を溶かして何の意味がある」

 そう彼女に説いた。

 彼女は生業としてのカメラマンだけでなく、芸術作品を撮るカメラマンでもある。心が真っすぐだからこそ曲がった指で撮った写真がどんなものか、いつかその展示会を拝見したいと思った。

(T)