中国の周永康氏、政治的抹殺へ動き急
汚職で元側近次々拘束
胡錦濤政権時代、中国共産党最高指導部の政治局常務委員(党序列9位)だった周永康・前党中央政法委員会書記が政界引退後、古巣の石油閥の汚職事件をめぐり、元側近が次々と拘束され、窮地に立たされている。かつては公安や司法部門を統括するトップとして権勢を振るったが、一部メディアでは自宅軟禁や拘束情報も飛び交い、失脚した薄煕来氏との密接な関係も指摘され、腐敗の全容が明らかになりつつある。
(香港・深川耕治)
石油閥の牙城に捜査のメス
昨年11月の党大会で政治局常務委員を退任し、政界を引退した周永康氏にとって、長年築き上げてきた石油閥の利権は周氏の家族や親族を通じて隠然たる政治力を保っていた。
だが、失脚した薄煕来元重慶市党委書記の事件や裁判を通じ、政治局常務委員会メンバーの中でただ一人、薄煕来氏の裁判に反対し、事件のもみ消し工作を図るなど、薄氏とは親密な関係だったことが明らかになり、新たな権力闘争の中で歯車が狂い始める。
周氏は、江沢民派として公安や司法部門を統括する党中央政法委員会書記まで上り詰め、大手国有企業「中国石油天然ガス集団」(CNPC)の母体トップを経験した石油閥であるだけに巨大利権に司直の手が入る余地はなかった。
しかし、薄氏の無期懲役が10月の二審で確定し、江沢民派の政治力をそいで権力集中を急ぐ習近平体制にとっては既得権益層の打破を大義名分に捜査のメスを入れる格好の条件がそろってきた。
ロイター通信などによると、習近平総書記が周氏やその家族を捜査する特別作業部会「二号専案」を設置して党規約違反容疑で捜査を水面下で進め、11日、周氏は当局から行動を厳しく監視される自宅軟禁状態に置かれている。
20日、党中央規律検査委員会は重大な規律違反と違法行為があったとして、周氏側近の李東生公安省次官を取り調べていることを発表した。21日付の香港紙「明報」によると、李次官は中国中央テレビ出身で、同じ中央テレビに勤務していた賈曉●(=火へんに華)氏を周氏に紹介し、周氏と賈氏が2001年に再婚したほどで職務上も深く関わっていたとされる。
周氏に連なる石油閥に当局の捜査の手が伸びる異変が始まったのは昨年12月、李春城四川省党委副書記(当時)が党中央規律検査委員会の取り調べを受け、拘束された時点からだ。周氏は四川省トップの同省党委書記を歴任し、引退後も同省に強い政治力が働いており、成都では周氏の息子が利権を共有していたとされる。
6月、周氏の腹心だった郭永祥・元四川省副省長が規律違反容疑で取り調べを受け、周氏の外堀が埋められていく。郭氏はCNPCの前身、中国石油天然ガス総公司の中堅幹部時代、同公司の社長だった周氏に見いだされて四川省で要職を歴任していた。
周氏が率いる石油閥の汚職疑惑には国のエネルギー政策を大きく左右する中国三大国有石油会社の一つ、CNPCと山東省の「勝利油田」の2系列があり、この2社の幹部らが北戴河会議(党最高指導部や長老が集まる非公式会議)後の8月末に芋づる式に拘束され、取り調べを受けていく。
CNPC系では、王永春副社長(大慶油田社長)、冉新権副総裁(長慶油田社長)、王道冨総地質師らが、勝利油田系では陶玉春崑崙天然ガス利用有限公司社長、李華林CNPC副社長らが拘束された。
特に衝撃が大きかったのは、9月、CNPC前会長であり、国有企業の監督官庁・国有資産監督管理委員会(国資委)トップの蒋潔敏主任が党から重大な規律違反で解任されたことだ。
在米中国語ニュースサイト「博訊」や「明鏡」によると、蒋氏らCNPC幹部が海外油田の買収や設備投資購入に関する非公開情報を周永康氏の長男・周浜(周斌)氏とその妻・王婉氏、周浜氏と親しい四川省の企業家・呉兵氏に流し、周氏の親族が米国で経営する企業の名義で仲介業務を請け負わせ、スイス銀行を通して米国の銀行に資金を流すマネーロンダリングで不正な利益を得ていた。
一方で、一連の疑惑や自身へ捜査の手が及んでいる情報を払拭するかのように、10月1日、周氏は母校・中国石油大学の創立60周年記念行事に出席し、健在ぶりをアピール。江沢民元国家主席の加護もあり、周氏への捜査は進展しないかのようにみえた。
しかし、10月中旬、習近平総書記は、党幹部の汚職捜査を通常行う党中央規律検査委員会とは別に習氏直属の特別捜査チームを設置し、周氏への捜査を水面下で指示。周氏の元側近の取り調べ、捜査で芋づる式に石油閥の汚職実態が判明し、周氏の長男夫婦や親族のマネーロンダリングも浮かび上がってきたことで周氏は拘束秒読み段階にもみえる。
中国では文化大革命の終了以降、政治局常務委員経験者の汚職問題を公式に取り調べる前例はなく、捜査しないことが不文律の慣例となっている。党最高指導部にいた人物の逮捕拘束となれば政権に与える影響も大きい。
それだけに「江沢民氏のメンツや党の不文律もあり、水面下での捜査や自宅軟禁がぎりぎりの線。事実上、政治生命という面では植物人間状態になったことで決着し、周氏が牛耳ってきた党中央政法委員会のひずみを、党総書記に権力一元化するために国家安全委員会を新設して出直しを図った」(香港誌「前哨」の劉達文編集長)との慎重論も根強い。